卵をどうする

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 手に持った卵をじっと見つめていた佳奈美が不意に僕のほうを向いた。 「ねえ」  エプロン姿の幼馴染に呼び掛けられ、僕は思わず少し身をこわばらせた。 「な……なんだよ」 「私ね、昔から割り算は嫌いだから卵とも相性が良くないのかも」 「意味が分からない」  実にまっすぐかつ正直な気持ちから出た言葉だ。 「例えばね、卵をかけるとご飯はおいしくなるわよね」 「……卵かけご飯?」 「そう。それに、卵を足すと味がまとまるわよね」 「……卵とじとか?」 「後、卵をひいて何かをのせて、くるくると丸めれば美味しいわよね」 「オムレツの事を言いたいのか? その場合、しく、じゃないかな?」 「細かすぎる男はモテないわよ」  むしろこんな下らない会話にも全力を尽くしている僕の努力は、女子の間でもっと評価されてもいいのではないだろうか。 「でも、卵ってねその全ての前段階として、割るという工程が入るでしょ?」 「中身を食べるのが卵だからね」 「そう、そうなのよ。そこがダメなの。割らないと全てが始まらない世界なんて、私にはとても受け入れられない」 「いやなんか話が壮大になってない?」 「そもそも、卵の事情を考えてみてよ」  今度は事情ときた。 「卵の本懐たる孵化への道を閉ざされ、人々に食べられるだけの存在となってしまった卵。あまりにも可哀想だわ」 「……まあ、そういう見方もあるかな」  万が一にも段階が進み、卵を割ったらヒヨコのなりかけが出てきたなんてのは、そう言うのを好んで食べる国でもなければ悪い冗談にもならないだろう。 「そんな可哀想な卵をさらに叩き割って中身を取り出すなんて、そんな酷いこと私にはできない」 「いや、ちゃんと割って食べてあげないと、ただ捨てられるだけになってより可哀想だと思うけど」 「そんなのエゴだわ。人の醜いエゴよ。こんな卵の惨状が目の前に広がっていると言うのに、君はどうしてそんな平然と卵を割れなんて言えるの!?」
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