プラトニック・エッグズ

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 地下室のさらに地下に私の研究室はある。  ここは強い明かりをつけることができないので、手探りでライトのスイッチを探す。そして、スイッチを入れると、橙色の光が足元からボウッと辺りを照らした。  ほのかな灯りに照らしだされたのは、両側一列にずらっと並んだ透明の筒。  その中には、液体があり、人型のものがいる。  人、正しくは卵―――――私はアンドロイドを作る側になったのだ。  そして、私は今、その中でもとある一体に、力を注いでいる。  私は彼の様子をよく見るために、その筒だけライトを強くする。  ―――そこにいるのは、サヤだった。  筒の中にいる彼はまだ少し幼い。まだまだ作り込みが甘いのだ。  あの頃―――  あの時―――  あの彼を―――  私は古くなった記憶を呼び起こし、イメージする。  前回は失敗だった。  卵計画に任せたサヤは私の思い描いていた同い年の『彼』にはならなかった。  あんな事細で、丁寧な要望書を提出したのに、微妙に違っていた。  大きくなった『彼』はジェットコースターで怯えないし、私が諦めない性格であることを、別に魅力と思わないはずだ。それは『彼』ではない。  けれど、できそこないのサヤから学んだこともある。 『彼』を生みだせるのは私だけだ。  あれから私は猛勉強し、卵を作る側になった。  運のいいことに、私が研究者になった頃に高まった声が、  ―――恋した卵と添い遂げたい。  だった。  当然だ。理想の姿、理想の内面。子供を必要としないのなら、人はそちらを選ぶに決まっている。  国としては膨れ上がりすぎた人口を抑えられるなら、問題ない。それにこの計画のおかげで虐待や離婚はずいぶん減った。また、アンドロイドを売れば、国庫が潤う。この愛は国をあげての一大産業になるのだ。 ―――それのどこが愛なのか。  見た目と中身が理想的で、都合がいいから、気に入らなければ簡単に捨てるような愛は、不純だ。  愛はもっと崇高で、魂が雷に撃たれるように震えを起こし、全てを捧げてもいいと、瞬時に思えるような何かがなければいけない。  だから、私は愛を貫くため、プロポーズしてくれた『彼』を再びこの世に甦らせる。  愛する人よ、もう一度。  これは純粋な愛だ。私こそがプラトニックラブだ。  そう思うと言いようのない強い愛しさが生まれ、私は温めるように『彼』の眠る卵を抱きしめた。  私は彼の母となり、やがて恋人になるのだ。  これこそが、私のプラトニック・エッグズ。
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