愛娘ビーナス

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愛娘ビーナス

 ビーナスが城へ帰って来ると憮然とした顔でソファの上にカバンを放り投げた。 「おいおい、どォした。ふて腐れたような顔をして?」  父親の魔王は心配そうに愛娘に(たず)ねた。  魔王は娘のビーナスを目の中に入れても痛くないほど可愛いがっていた。 「はァ、知るかよ」  しかし美少女はそっぽを向いて応えた。 「なんじゃァ、せっかく可愛らしい顔をしておるのに、もったいないぞ。ビーナス」 「はァうっせえェなァ。ジジーが」  だが親の心子知らずだ。  愛娘は絶賛、反抗期の真っ只中だった。 「ジジーではない。パパと呼べ。パパと」 「ウザァ。なにがパパだよ。クソジジーのクセに」  またそっぽを向いて唇を尖らせた。 「なんじゃ。学校でイジメられたのか。だったらこの吾輩が仇をとってやろう。どこのガキだ。すぐさま魔王軍を率いて孫子(まごこ)の代まで叩きのめしてやるぞォ」  魔王は立ち上がり拳を握りしめた。 「結構だって。ほっとけよ。私のことは!」 「なんじゃどうしたんじゃァ。ビーナス?」 「だから、私のことをビーナスって呼ぶな。恥ずかしいだろう」  少し照れたように頬を赤らめた。 「なんでじゃ。美女神と書いてビーナスと読むんじゃ。この吾輩がつけてやった名前なんじゃ。可愛らしいじゃろう。グワァッカカカッ」  魔王は豪快に笑い飛ばした。 「どこがだよ。全然可愛くねえェだろうが。むしろ恥ずかしいから人前で、ビーナスって呼ぶなよ。だいたい普通の親父(オヤジ)が娘にビーナスなんて名前をつけるかァ?」 「クワッカカッ、おバカだな。吾輩をに転がっている普通の父親(パパ)だと思うなよ」 「なんだ。そのメープル超合金のカズレーザー的な返しは?」 「クワッカカッ、ビーナスは今、流行(はや)りのキラキラネームなのじゃ」  魔王は豪快に笑い飛ばした。 「古ゥ。キラキラネームなんてもう絶望的に流行(はや)ってねえェよ。いつの時代の話しだよ。平成か?」
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