ビーナス

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ビーナス

「ほらァ、真夏になると夜中に裏庭で、リーリーッて鳴くだろう。あれなんか、たいていビーナスなんじゃ」 「んなワケあるかァ。それは、コオロギか鈴虫だろうがァ。なにを適当なことを言ってんだよォ!」 「そこでじゃァ、折り入ってビーナスにあるのじゃ!」  突然、父親の魔王はシリアスな顔になった。 「ンうゥッなんだよ。いきなりなんの脈略もなくってェ……?」  ビーナスは悪い予感がして眉をひそませた。 「ご存知の通り吾輩はこの魔界では知らぬモノはいないと言われる魔王じゃァ」 「そりゃァまァ、魔王だからな。みんなご存知だろう」 「家臣の間では魔界一、面白いと評判の魔王なんじゃァ」 「いやいや、そりゃァそうだろう。だいたい家臣は魔王に詰まらないとか言わないじゃん。忖度(そんたく)して、魔界でッて言うんだよ」 「そこでじゃ、このたび吾輩はお笑い芸人としてデビューすることに決めたんじゃァ」  魔王は貫禄をみせるように胸を張った。 「えッえ、え、えェ……。何それェッ。誰が決めたんだよォ?」  
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