喫茶センジュにて会いましょう

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 行き先は、最寄駅から二駅離れたアウトレットモール。明日は都心のお洒落な喫茶店に行くわけだから、リハビリには丁度いい。  家を出る前、何十回と鏡を見て大丈夫と確信したにも関わらず、外に繰り出してから初めて人とすれ違う際には流石にひどく緊張した。  背筋が伸び固まり、息もぎこちなくなっていた私だが、その後二人、三人とすれ違って行くうちに、緊張はだんたんと解けて調子を取り戻していった。  電車の中では満員でもないのにドアにもたれかかり、車窓からの景色を眺めながら、俗世との関わりを絶ってから悟ったことを思い出していた。  この世界のほとんどの人にとって、私はどうでもいい存在だ。背景の一部のようなものであって、私がどんな姿で何をしていようと、特に大きな意味を持たない。それは、逆も然りで私にとっての一般人(モブ)たちと同じだ。  だから、他人の目なんて過剰に気にする必要などないのだーー  「あっ、あそこにいるの豊松じゃない?」  「うそ! まだ生きてたんだね」  油断していた。一駅目で乗り込んできた見覚えのある二人組の声は、私の心に飛んできてぐさりと突き刺さった。
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