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緩んでいた緊張の糸は一瞬にして私を縛り上げ、私は身体を微塵も動かせないまま、次の駅で目の前のドアが開くのを心から切に願っていた。
明日の行き先は近所ではないから、今日よりはまだ安心できるはずだ。
私は目的の駅に到着すると、足早にアウトレットモールへと直行し、店員の干渉がなさそうな手頃な店を見つけ、適当に店頭のおすすめ商品を手にしてレジを済ませ、自宅へと直帰した。
まるで、戦利品を抱えているのに敗走しているような気分だった。
その夜、私は河野せせらぎさんを初めて知るきっかけとなった『千寿草物語』を読み耽っていた。
何度も読んだ物語だけれど、何度も読みたくなる、何度読んでも勇気を与えてくれる、そんな物語だ。
文章の詩的な美しさはあるものの、内容は今時ありがちな異世界ものの冒険ファンタジーで、特別読者が多いわけでもない。どちらかといえば広く深いネット小説の海に埋もれた作品だ。
それでも、私にとっては唯一無二の名作に相違ない。
一番好きなシーンを読み終えると、私はアラームを設定してベッドに身体を倒した。
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