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運命の朝、約束は昼からだというのに私は無駄に早起きして、身だしなみをしつこいくらいに整えていた。
今日会うのはどうでもいい一般人たちとは違う。
もし会って失望されたらどうしようか?
私は不安に押しつぶされそうだった。それでも、生まれてから今に至るまで、ここまで会いたいと思った人など一人もいなかった。
秒針を目で追い、トイレと自室を何度も行き来して、11時になると同時に私は遂に玄関を飛び出した。
最寄駅まで徒歩5分。ホームに着いたらすぐに都心への急行に乗り込める算段だ。余計な顔ぶれに会うことなく目的地へと向かうために夜な夜な立てた作戦は、見事成功した。
ところが、電車で揺られながら緊張を和らげようと何となくスマホを眺めていると、河野せせらぎさんからのメッセージの通知が入った。
「すみません、今日は体調を崩してしまい、お会いすることができなくなってしまいました。本当にごめんなさい」
この日に向けて、どれだけ期待と不安に心を躍らせ、踊らせられたのだろうか。
私は昨日と今日に出した精一杯の勇気が報われなかったことで目の前が真っ暗になってしまった。
「もし、綾瀬さんがよろしければ、後日またお会いできたら幸いです」
やけになって画面をスクロールすると、出てきた続きの文章に幾分か心が救われた。具体的な日付や時間は未定でも、まだ次があるかもしれないという可能性が、ほとんど折れた期待の芽を筋一本で繋ぎ止めていた。
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