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それからまた二週間が経った今日、私たちは同じ時刻、同じ場所で会う約束をしている。
三度目の正直という言葉があるが、おそらく今日会えなかったらもう次の機会はないかもしれないという予感がしていた。
そのため、昨夜から熱もないのに解熱剤を飲んで、無駄に早寝してバイタルを仕上げてきた。
メンタルの方はというと、会えそうで会えないことが二度も続いたせいで、会いたさが爆発しそうなほどに膨らんで落ち着かなかった。
都心への急行が駅に着く5分前、家を出発するギリギリまで、私は『千寿草物語』を読んで気持ちを高めることにした。
人間には魔法が使えないーーそんな世界で魔法が使える主人公は、そのために周囲の人々から迫害され、故郷の村から追い出されてしまった。
それからは二度と人前で魔法を使わないことを誓っていたのだが、目の前で死にそうになっている剣士を見つけ、彼を助けるために魔法を使うーー
私には当然魔法は使えないけれど、どこか自分の姿と重なるものを感じ、いつも主人公に元気付けられてきた。
死にかけの剣士は、助けたところで魔法が使える自分を不気味がり殺しにかかってくる可能性だってあったはずだ。それでも見殺しにしたくないと、覚悟を決めて魔法を行使するにはどれほどの勇気が必要だったのだろうか。
私も今、学校というムラから弾き出されて立てた<二度と他人とは顔を会わせまい>という誓いを破り、善か悪かもわからない相手に会おうとしている。
まあ、主人公が助けた剣士みたいにきっと私を迫害することはないだろうという根拠のない自信はあってのことだが。
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