しあわせたまご

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佳織たちは啓介の実家で有機栽培をしていると聞いて、是非とも見せて欲しい、出来れば手伝わせてほしいと言い、ちょくちょくやって来るようになった。 大喜びで畑仕事を手伝い、土産に野菜や卵をもらってゴキゲンに帰って行く。 そんなことを繰り返している内に、自然と佳織と付き合うようになり、一年後に結婚した。 食生活はますます充実した。 佳織は、義父の養鶏にも興味津々。義母の農業にも興味津々。たまに実家に帰ると、何でも手伝いたがった。嬉しそうに畑や鶏の世話をしていた。 啓介に子どもが生まれ、しばらく実家に帰る足が遠のいていた。 「お父さんが具合悪いから、またこっちにも顔出してよ」とサチから電話があった。 帰ってみると、父は思いがけないほど弱っていた。 鶏舎の屋根を修理していて、脚立から転げ落ち、それ以来寝付いてしまったということだった。 「ねえ、貴方実家に帰らない?」佳織がそういった。 「先週だって帰ったじゃ無いか」 「そうじゃなくて・・・こっちを引き払って、実家の方で一緒に暮らさない?御義母さんだって、鶏と野菜と両方は無理でしょ?お義父さんの世話もあるし」 「会社をやめるってことか?」 「この子にもその方がずっといいと思うの。空気も水も土も良くて、良い食べ物で育ててあげたいじゃない?」 啓介はすでに自然食品の偉大さについて、充分理解していた。身体が正直に理解させてくれたのだ。 特に幼い子どもには大切だと思う。近頃は「ロハスな生活」などと盛んに言うようになったが、都会にいては、いくら気をつけていても完璧なロハスなんてあり得ない。
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