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半年後、啓介は実家に帰りヒヨコを育てていた。
啓二は更に弱っていて、養鶏の全ては啓介の仕事になっていた。
啓介は我が子に食べさせても心配ない卵を産ませたいと一生懸命頑張っていた。父から学べる内に学んでおきたい。人にも伝えたいと、父から聞いたことを書き取り、整理して詳しい養鶏のノウハウを一冊の冊子にまとめた。
啓介がヒヨコから育てた鶏が、初めてのタマゴを産んだ。
その卵でトロトロのオムレツを作った。
枯れ木のように痩せ細り、もう会話もできなくなっていた父の枕元に座り、
トロトロの卵をスプーンで掬い、父の口元に運んだ。
そっと、唇の間に、ほんの僅かな量を、舌に塗る。
細く眼を明けた啓二は
うっすらと微笑んで、かすかに頷き、
「ワシ、しあわせや・・・・・・」
かすれた声でそう呟いて
永い眠りについた。
(完)
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