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ある朝、
「お父さん、大変!」サチが血相を変えて走ってきた。
「なんや?どないした?」
「鶏の様子がおかしいよ!」
「なんやと!」
その年に近隣養鶏場で流行っていた伝染病にやられたのだ。
全ての鶏が発病していたわけではなかったが、伝染病がでた養鶏場は、全ての取引先から閉め出された。卵も食肉も一切売ることが出来なくなった。
結果として、全部処分するしかなかった。
鶏の鳴き声のしない朝。
がらんとした鶏舎。
見えるのが辛かった。
「人生山あり谷ありや」
サチはそう言って、愚痴をこぼすこともなく、アパートの管理と野菜作りに精をだしていた。アパートに比べて、無農薬で育てる野菜には手がかかるようだった。
アパート建ててくれとって助かったな。
啓二は内心サチに感謝しながらも、身体が空洞になったようで、何をする元気も湧いてこなかった。
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