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そんな無為な日々を過ごして3ヶ月も経ったある日、表で賑やかな鶏の鳴き声がした。
啓二は飛び出した。もしや鶏が帰ってきたのかと思ったのだ。
もちろん死んだ鶏が帰ってくるはずはなく、友人の田川がトラックに30羽ほどの鶏を乗せてやって来たのだった。
「あれ、おまえ、養鶏はどないしたんよ?」
「どうしたもこうしたもあるけ!全部死んだ・・・・・・っちゅうか、殺したんじゃ」
涙をこらえて顛末を話した。
可哀想なことをした。不憫な一生を送らせてしまった。
田川に話している内に、自分がなにを悔やんでいたのかが、はっきりわかった気がした。
死なせてしまった鶏たちに、心の中で詫び、合掌した。
「なんじゃ~!お前んとこでワシの鶏引き取って貰おうと思うとったんに」
「なんでまた」
「息子が神戸の方で不動産屋始めるっちゅうて、ワシも会長になるんよ。
今の家も畳んで町の方ビル立てるんじゃ。ほいでそっちにに引っ越しじゃ」
「で、その鶏はどないするつもりやねん」
「そやからお前んとこに引き取ってもらおと思うてつれてきたんじゃ。
まあ、これっぱかしを趣味で育ててた様なもんやからな。
お前んとこの鶏に混ぜてもろたらええと思うてな」
「病気にならへんかったんか?」
「病気なんかしたことないなぁ。好きに庭を走り回って、新鮮な草やらエサやら食うとりゃ病気なんぞせんわいな」
「そんなもんかいなあ」
そうかも知れないなと思った。
「あ、あのせまーい檻みたいな囲いには入れんといてや。
こいつら、純粋に国産のええ鶏やねんで。そこらの養鶏場で飼ってる輸入モンの鶏とは血筋がちがうんや」と田川は自慢げに鼻を膨らませる。
「エサも置いとくさかいな。これもワシがブレンドした自慢のエサじゃ」
「なんか特別なエサなんか?」
「おうよ!米ぬかやら蛎殻やら魚粉やらを混ぜてあるんや」
と差し出してみせる。
「あ、それからこれは今朝産んだタマゴな。うまいでー」
と大事そうに新聞紙でくるんだタマゴも置いていった。
「ほんならよろしゅう頼むわなー
お前もちいと庭走り回った方がええでー」と言って鶏を置いて帰った。
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