一章 高遠千秋

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 高遠家の男子は代々霊力(現在は霊感と呼ばれる)が強かったため、元来祈祷を生業としていたのだ。久留米家の生き残りによる懇願にも近い依頼を受けた高遠家の先祖は、呪いを解くべく祈祷を捧げることとなる。  しかし正宗の恨み、怒りは凄まじく、祈祷を捧げた高遠家の男の中には、その力に耐えられず命を落とした者もいた。それでも、祈祷は続けられた。霊力を与えられた者としての義務からなのか、はたまた自分たちに救いを求めてきた者たちを助けたかったのか、今となっては分からない。  さらに高遠家は正宗の魂を鎮めるため、社を建て祀り上げた。それが私の家——織成神社の始まりといわれている。命をかけて魂を鎮める高遠家に正宗が加護を授けたのか、はたまた単なる偶然か。それからというもの、高遠家の本家筋から生まれる娘たちはなぜか異常に長く生きるようになってしまった。  こうやって説明してみると、久留米家への呪いもかなり薄まったのでは、と期待されるかもしれない。事実、久留米家の男子が苦しみながら死んでいくことはなくなったし、かつてよりは平均寿命も延びた。……それでも、今もなお彼らが三十歳を迎えることは絶対にないと言われている。現実はそこまで甘くなかったのだ。  なんにせよこういった経緯により、久留米家は今でも高遠家に多額の祭祀料を自主的に渡しているし、高遠家もまたそれに応えるよう、正宗を祀り続けることで久留米家を守ってきた。ここまで語ると、久留米家と高遠家は長き歳月に渡り共存しているようだし、事実その通りではある。  しかし、 「でもさ、そう考えるとつくづくうちの先祖ってどうしようもないよね。とんでもない怨霊を生み出してしまうだけじゃなく、助けてもらってる高遠の人にまで、後世に遺恨を残す大喧嘩を吹っかけるんだもん」  そう。  高遠家と久留米家の仲は、決して良好というわけではなかった。
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