『桜の花咲け』プロローグ

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日本は今、夏らしい。 太陽が無駄に仕事熱心なせいで毎年毎年熱中症でブッ倒れる人達がいる季節。 太陽も仕事熱心なのはいいけど、もうちょっとゆとりを持って仕事してもいいんじゃない? どうせ冬になったらお前仕事放棄するんだし。 俺が今いるアメリカでも、とりあえず似たような太陽の仕事による被害者は毎年毎年いる。 けどまぁ…年中屋敷に引き込もってる俺には関係のない話。 とか下らないことを考えながら、俺は自分の部屋でボーっとしている。 そんな俺のバカみたいにデカイ部屋に、ノックの音が転がった。 続いて部屋のドアが開かれ、そこから屋敷のメイドさんが現れる。 「春馬(はるま)様。お食事の準備が出来ましたので──」 「あぁ分かった。すぐ行くよ。」 そう素っ気なく答えると、メイドさんは一礼だけして静かに去った。 ──春馬様。 世界的な大企業、桜井財閥の社長の息子である俺。 桜井(さくらい) 春馬(はるま)の一日は、こんな光景ばかりだ。 バカみたいにデカイ屋敷で、ロクに自由な外出もさせてもらえず、ただ引き込もって同じやりとりを繰り返す。 そのループした一日を、俺は今日も繰り返す。 部屋のドアノブに手をかけ、俺は部屋から出たのだった。 さぁ始めよう、クソつまんない一日を。 『生きていくためには少しのお金と希望があればいい。』 これはチャーリー・チャップリンというお方の言葉だ。 まったくその通り。 その二つさえあれば、とりあえず生きることは出来る。 俺に金はある。 それも"ちょっと"なんかじゃなく、莫大なお金が。 俺の父さん──桜井(さくらい) 秋仁(あきひと)は、桜井財閥というかなり有名な大企業の社長だ。 俺はその社長の息子なんだから、まぁお金に困る生活とは無縁。 ただ…"希望"はあるかと聞かれれば…分からない。 いや、別に俺自分は不幸だ~なんてことは思ってないよ。 それなりに恵まれてるよ。 でも…何もない。 俺の人生には、何もない。 でっかい屋敷で引き込もって、同じような毎日を永遠と繰り返すだけの日々。 大企業の社長の息子なんだから、厳重に保護したいっていう皆様のお気持ちは分かるけど…そのお蔭様で、俺の人生は真っ白だ。 何にも染まっていない、何も知らない、殺風景な人生。 そんな人生送ってる俺に、"希望"とか言われても…そもそも何に対する"希望"を持てばいいのかが分からないからなぁ…。 『運命は、チャンスでなく選択で決まる。それは待つものではなく、勝ち取るもの。』 これはウィリアム・ブライアンというお方の言葉だ。 …俺は別に、こんな面白くない人生を変えてくれるチャンスとか…そういうのは待ってない。 もう半ば諦めてる、というか…さっきも言ったけど、別に俺は不幸ってわけじゃないんだし。 ただ、俺の人生はクソつまんないってだけだ。 恵まれてはいるんだ。 こんなに広い屋敷で暮らして、何不自由ない生活して…だからチャンスも待たないし、…何かを勝ち取ろうとかも思わない。 「…はぁ……」 何故かため息が出てしまった。 まぁ逃げられる程の幸せはないから、好きなだけため息吐いたって問題はないか…。 「おや春馬様!!」 ちょっとした考え事をしていた時に、そんな鬱陶しい声が背中越しに聞こえてきた。 かなりビックリしたけど、意地でもリアクションしないでおく。 「…ようフラット。」 死んだような目で、その声の主に声を掛ける。 ヨボヨボの顔をニコニコ笑顔でクシャクシャにして、ピシッとしたスーツに身を包むジジイ。 振り返った先にいた人物は、俺の専属執事であるフラットだった。 「春馬様、ため息は幸せを逃がしてしまいますぞ!!」 「大丈夫大丈夫、幸せ放し飼いしてるだけでいつか帰ってくるから。」 フラットはジジイ執事だ。 ジジイ執事のクセに元気だ。 つまり若者のクセに元気じゃない俺にとっては、超ウザい。
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