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『世界とは鏡のようなもの。それを変えるにはあなたを変えるしかない。』
これはアレイスター・クロウリーというお方の言葉だ。
俺の世界は真っ白だ。
例えるならそれは冬のような──
「ところで春馬様、お食事の準備が」
「さっき聞いたって。」
無駄にデカイ屋敷の廊下をだらだら歩く俺と、ヨボヨボのクセに軽い足取りで歩くフラット。
俺の世界を変えるには、俺が変わるしかないってことだ。
…いや、何を変えろというんですか。
今から俺が二言目には"努力"って口にするような超熱血少年になればいいんですか。
それとも思い切った行動をとればいいんですか。
「……家出、とか……」
「はい?何かおっしゃいましたか?」
自然とそう呟き、フラットはそんな俺の呟きに食いつく。
「いや、もし俺が家出とかしたら…どうなるかなぁって…」
言って、馬鹿げたことを口にしたと自分で笑ってしまう。
こ~んな明らかにセキュリティ万全なダンジョンから家出だなんて、難易度デビル所の話じゃないな。
「な…なんと…春馬様、家出なされるのですか…?」
ただ、そんな俺の問いを深読みしたのか…フラットは驚愕していた。
いや家出なさらねぇし仮に家出なさるならお前に言うほど迂闊じゃねぇよ舐めんな。
「あぁいや、別に家出したいって言ってんじゃなくて──」
「こ…これは大事件ですぞおぉぉぉ!!!」
おい誰かこのジジイに今すぐ冷水ぶっかけてくれ。
フラットはやたらオーバーリアクションで混乱し、とりあえず何か勘違いをしたようだった。
ウザいから放置しようかと思ったけど、なんかまずいことになりそうだから誤解を解かないと──
「了解しました春馬様!!このフラットめにお任せ下さいませ!!」
「え?」
フラットは胸に手を当て、別にカッコよくないのに無駄に凛々しい顔付きに。
そしてそのまま、俺を残して廊下を走り去って行ってしまった。
ヨボヨボの老人が出していいスピードの走りじゃねぇぞあれ。
「……え?」
…あれ?
ちょっと待て、あのジジイ本気にしたんじゃねぇの?
おいおいおい勘弁してくれよ、そんなことあの馬鹿父さんに知られたらまた面倒臭いことに…。
…………。
…でも…家出、か…考えたことなかった。
確かに、家出すりゃ、もっと世界を知れる。
"普通"を知れる。
俺のつまんない人生が、変わるかもしれない。
真っ白だった俺の心が彩られるかもしれない。
……………
………
…。
家出したら楽しいんじゃね?
いやいやいや、何考えてんの俺。
んな妄想力は発揮しなくていいんだよ俺。
今のは冗談ということで、とりあえず笑っとこう。
「はっはっはっは。」
「はっはっはっは!!そうか家出か!!」
無駄にデカイ部屋に父さんの笑い声が響いていた。
おかしいな。
俺は食事をしにこの部屋へとやって来たのに、入ってきてそうそう"家出"の話題で盛り上がってる父さんがいるとは何事?
部屋の入口で馬鹿みたいに突っ立つ俺を余所に、父さんは愉快そうに笑う。
桜井 秋仁。
我が父であり、桜井財閥という大企業のトップに立つ男。
「どうした父さん、理由も分からず爆笑されて今お前の目の前にいる息子はどんどん目が白くなってるぞ。」
「何言ってんだ、これが笑わずにいられるか!!」
どれが笑わずにいられるか分からんから説明しろって意味込めてたんだけど伝わらん?
一応言っとくが笑ってんのはお前だけだから。
周りの使用人達は笑わずにいられてるから。
「家出したいんだってな、春馬!!」
「…………?」
アホの父に言われ、白い目のまま首を傾げる俺。
……家出?
あぁ、まぁ確かにそんなこと言ったけど…え?
なんで父さんがそれを知ってんの?
フラットにしか言ってないハズなんだけど…と、チラッと父さんの隣に立つフラットを見る。
フラットは満面の笑みを浮かべながら俺に親指を立てていた。
あぁ成る程、アイツが父さんに報告したのか成る程成る程。
「お前後で濡れタオルでシバき回す。」
「何故ですか春馬様っ!?」
いや何故シバかれんのか分かってない感じが腹立つから。
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