最期の試練

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やたらと重い瞼を開くと、そこにはぼやけた天井が映った。 2、3回瞬きをし、ようやくここは室内だということが分かる。 俺はベッドに寝そべっていて、その俺の側には── 「……翠……?」 俺が眠るベッドの隣には、椅子に座りながらも俺の腹を枕にするようにした状態で眠っている翠がいた。 「目覚めの第一声が姉さんの名前とは…またベタっスねぇ…。」 そして、部屋の隅からはそんな腹立つ声が。 …部屋…?誰の…? 首を動かしそちらに目をやると、そこには声の主である蒼が── 「…どうしたんだ、お前…?」 …何故かそこにいた蒼は、顔から腕や脚まで…まるで猫の大群にでも襲われたみたいに引っ掻き傷だらけになっていた。 蒼ははにかみながら笑う。 「蓮寺さんをここに運んでから、さっきまでずっと姉さんにサンドバックにされてたっスから…」 そう言い、今は俺の側で眠っている翠を指差す。 ここに運んで…って、そうだ、俺は確か── 「無理しないでくださいよ。まだ身体が上手く動かないでしょ。」 蒼に言われた通り、まだ俺は身体が上手く動かない。 痺れてる…つーか、力が入らない…? てゆーか、俺撃たれたんじゃ…。 「あの拳銃…偽物っス。」 「……え?」 俺の心を見通したように蒼は言う。 偽物…あれは、やっぱ偽物だったのか。 でも…じゃああれは一体…。 「"トラブル弾"って言うんスけどね。対象の体内に直接即効性のある麻酔薬を撃ち込む物っス。」 そう言い蒼は懐からあの"拳銃のようなもの"を取り出した。 即効性の麻酔薬…? 「…まぁ、飛ぶ麻酔針だとでも思ってください。本来は警察とかが持つべき物ですけどね。」 「…あぁ…そうか…。」 だから俺は膝上撃たれただけなのに、意識が遠退いたのか。 …そっか…本物じゃ…なかったのか…。 …いや、どっちにしてもなんでんな物騒なもん持ってんの君…? 「…って…いつ麻酔は切れんの…?」 目は覚めたが、まだ全然身体動かないし。 しかも俺、偽物とは言え撃たれたんだろ…? 「撃ったのが2時間前っスから…まぁ、あと一時間もすれば回復しますよ。そんなに強力な麻酔でもありませんし。」 ニコニコ語る蒼。いや、十分強力ですよ。 つーか…じゃあ俺は2時間寝てたのかよ…。 「撃たれたとこも、処置はしましたので跡にはなりませんよ。少し痛い注射した程度の傷ですしね。」 「…そう…か…。」 そう呟き、俺はすぐ側で寝息を立てる翠を見た。 …まぁ…なんせ、無事だったんだな…。 「…やっぱり僕は、蓮寺さんをナメていたみたいっス。」 蒼は今までにないほど…妙に意気消沈としたような声でそう言う。 …ナメていた…? 「…アレは…蓮寺さんへの、最後のテストだったんです。」 「…テスト……?」 蒼の言う"アレ"ってのはつまり…さっきの、蒼が俺に取引を持ち出した事だよな…。 「蓮寺さんには姉さんを護る強さがあるのか…って。」 …だからって、あんな心臓に悪い芝居しなくても良かったんじゃ…。 …やっぱ、結局俺は蒼に騙されてたってわけか。 「もう、好きにしてください。僕は蓮寺さんに負けたんですから。」 蒼は翠に視線を移しそう言った。 …好きにしてくださいって…なんか、両親の許可を貰ったみたいな言い方だな。 でも…好きにするのは、俺じゃない。 俺は蒼の最後のテストに合格した。 なら次は…。 「……むぅ……?」 …コイツが、最後のテストを受ける番だ。 翠は奇妙な声を上げて瞼を開き、寝ぼけ眼で辺りを見回す。 「もっと寝てていいぞ。ガキはとっくに寝てる時間だからな。」 ようやく目が覚めた翠にそう言うと、翠は俺の顔をまじまじと見つめる。 寝ぼけ眼だったそれは、俺の姿を捉えるなり── 「…レ…レンんん~~っ!!」 俺の名を大声で呼びながら、俺の手を強く握ってきた。 なんか、ようやく目覚めた意識不明の入院患者な気分だ。
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