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「大丈夫ですかっ!?痛くありませんかっ!?翠が分かりますかっ!?翠のことを大好きだと言ってくれた記憶は──」
「大丈夫だから落ち着け。」
あと大好きとまでは言ってねぇよ微妙な捏造すんな。
俺がそう言うと、翠はとりあえず落ち着いて深呼吸をする。
そして俺の顔をまじまじと見て…心配ないのが分かったのか、安堵の息を吐いた。
「大丈夫だって何度も何度も説明したんスけどね…。」
翠の後ろでは蒼が苦笑いを浮かべながらそう言うが、それに対して翠は睨…んでいるのかよくわからない目で蒼を見る。
「まぁまぁ、とりあえず命に別状はないし大丈夫だから。」
「そうですか…。あ、蒼にはちゃんと翠がお仕置きしておきましたから!」
でしょうね。
アナタの後ろにいる蒼は体中引っ掻き傷だらけだもの。
まぁそんなお仕置きを律儀に受ける蒼って、実はかなりシスコンなのかもしれないと思ってしまう今日この頃。
それよりも俺は、翠に言わなければならないことがある。
「…翠。俺達って…家族だっただろ?」
「……?は…はい、そうです。」
俺と翠は家族。
でも、それは蒼の言う"おままごと"ってやつなのかもしれない。
それは悪いことではないけど、今の俺が求めてるのは…そんな関係じゃない。
「俺、あのテストを全部見事に合格したんだ。だからさ…」
「……………?」
多分、俺が言いたいことが翠には分かってないんだろう。
翠は首を傾げ、俺の言葉を待つ。
「…まずは友達から、始めようぜ。」
「……………?」
家族を止める。
翠には、ちゃんと本当の家族がいるから。
もちろん俺だって家族なんだけど…けど、俺はスタートからやり直したい。
「……え…えぇっ!?何故ですかっ!?もう翠は明日にでもレンの正式なお嫁さんになるつもりで──」
「あ~、いや…そういう意味じゃなくて…。」
別れ話聞かされたみたいに泣きそうな顔で俺の手を握る翠。
気が早すぎてやや恐怖を感じたが、まぁそこはスルーしとこう…。
「一度さ、"家出少女とその拾い主"なんて奇妙な関係は終わらせようぜ…って意味だよ。」
俺がそう言うも、翠はさらに訳が分からないと言うように首を傾げる。
「…あ~…つまりだな…。」
どう説明すれば良いか分からず俺は少しイライラする。
…もう単刀直入に言っちゃおう。
「…お前、家出は終わりにしろ。」
「………………。」
…割とキツイことを言ってしまったのかもしれない。
でも、翠に前へ進んでもらわないと…俺達も前へは進めないから。
「…もう、逃げるのは止めにしようぜ。」
自分にウソをつくのは…止めにしよう。
翠の頭に手を置いて、優しく撫でてやる。
翠は俯いたが…すぐに顔を上げ、心配そうに俺を見る。
「…翠…あの人をずっと避けていたのに…今更、やり直せますでしょうか…。」
「大丈夫だ。お前なら大丈夫。」
確かに、翠の"本当の親"は…ろくでなしだけど、でも、今の翠の親は少なくとも翠を拒絶してはない。
それどころか、もう一度ちゃんと話がしたいだなんて言ってるんだから。
それに…そもそもコイツには、そんなもん吹っ飛ばすくらいのパワーがあるんだ。
…そのパワーに当てられた俺が言うんだ。
コイツなら、出来る。
「俺はお前の婚約者なんだろ?なら婚約者の言葉ぐらい信じろって。」
俺がそう言うと、翠は目を閉じ…すぐに決心ができたのか、勢い良く椅子から立ち上がった。
「翠っ…頑張って来ますっ!!」
「え?いや、頑張って来ますって……」
俺が止めるのを聞かず、翠はその勢いのままこの部屋から出て行ってしまった。
そのドタバタした音が遠くなるのを聞きながら、ボケーっと思考する。
…え、あれ?
今更だけど、もしかしてここって──
「…なぁ、まさかここって…。」
「ええ、南條家っス。」
すぐそこにいる蒼に聞くと、やはりその応えが。
…南條家…マジか…。
俺が知らなかっただけで、もうすでに翠と義母さんはすぐ近くにいたわけか…。
「…蓮寺さんは、姉さんと母さん…仲直りできると思いますか?」
「翠が一人勝手に避けてただけなんだから、仲直りできるって。アイツ、かなり甘えっ子だし。」
そう言い、俺はようやく動くようになった腕を動かし頭を掻く。
すると不意に蒼が小さく笑った。
「ははっ…僕も同意見っス。僕らは、これからはちゃんと家族になれますよ。」
そう言い笑う蒼。
いつもの、貼り付けたようなニコニコ顔じゃない。年相応の、笑顔。
…なんだかな…結局、今回の家出騒動で1番頑張ってたのって…蒼なのかもしれない。
コイツには…敵わないな。
「…ホント…僕の完敗っスよ、蓮寺さん…。」
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