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「え~っと…父さん、それは冗談で言っただけで」
「ついにお前も家出したくなったか!!いやぁ立派に成長したなぁ俺は嬉しいぞ!!」
お前の息子に発言権はないのか。
あと"家出したくなる=立派"って方程式は確実にアブノーマルだけどこの親大丈夫か?
でも…何故か喜ばれてる。
家出したいって発言を喜ばれるってのも複雑な心境だけど、なんか…思ってたのと違う…。
「なぁ美雪!!ついに春馬もそんな年になったみたいだぞ!!」
大変嬉しそうに、父さんは隣にいた俺の母さん──桜井 美雪にも喜びを主張する。
母さんは穏やかにニッコリと笑い…
「そうですね秋仁さん、私も嬉しいです。」
「何この家族。」
息子の冗談で言った"家出"で何こんなにも盛り上がっちゃってんの?
俺そんな親の脛齧って生きてる穀潰しみたいな扱いされてたの?まだ未成年なのに厳しすぎない?
「俺はな、お前がそんな行動をとってくれるのを待っていた!!」
そう言って父さんは立ち上がる。
「俺はお前の家出を許可する!!」
家出を許可するなんて日本語聞いたことねぇよ。
死んだ目で内心ツッコむも、ふとその発言に目をパチクリさせる。
「って……え?」
何か今、物凄いこと言われなかったか俺?
父さんはそのままズンズンと俺の下へ歩み寄る。
「お前のやりたいようにやれ。つっても、許可すんのは一年だけだからな。」
「……え、ぁ、いや、ちょっと待って……」
話に着いていけずに混乱する俺。
ちょっと待てちょっと待て、ウソだろ何この空気?
誰でもいいから早く「なぁ~んちゃって☆」ってお茶目に冗談ということにしてくれないと…!
「よっしじゃあ家出の準備をしろフラット!!」
「御心配なく秋仁様!!既に準備は整っております!」
「整えてたの!?どのタイミングで!?」
父さんに肩をドンと押され、よろけた俺の腕をフラットが掴む。
そしてそのまま、半ば強引に俺を引っ張るようにして歩き出す。
「ちょっ、ちょっと待てフラットっ!!え、ウソマジで!?何このノリいつまで続くの!?」
「青春は待ってくれませんぞ~!!」
お前のその謎のテンションは何!?
そのまま屋敷の玄関へと連れ去られ、いつの間にかそこに用意されてあった鞄をフラットに手渡される。
持ってみると、その鞄は異様に軽かった。
「おいお前これ中身何も入ってないだろ。「準備は整っております」って発言に関して今ここで俺に土下座して謝れ。」
「青春は待ってくれませんぞ~!!」
お前さては俺の話聞いてないだろ。
またフラットに引っ張られるようにして、俺は強引に屋敷の外へと飛び出す。
すると、目の前のバカデカイ庭にはいつの間にかメイドさん達が列を成して俺をお見送りする準備をしていた。
「「行ってらっしゃいませ春馬様~!」」
「…これは本当に何をさせられてんの?」
よく分からんけど家出ってこんな感じではないよな絶対。
またまたフラットに引っ張られ、庭の先のデカイ門の前についた。
この門を抜ければ、桜井の屋敷の外だ。
「…この門の先が……外の世界です春馬様!!」
何故かテンション高いフラットと、それに引っ張られたまま目を死なせる俺。
「ははは!!一年間頑張るんだぞ!!」
「立派になるのよ~」
いつの間にか後ろには父さんと母さんもいた。
息子の家出を笑顔で見送っている。
とりあえずこんなん家出じゃねぇよとツッコミたい。
「春馬ぁ!!テメェが欲しいもんは何だぁ!!」
父さんの、一際デカイ声が響く。
ムカつくから無視しようかと思った。
けど、自然と俺は答えていた。
「──桜だぁ!!」
んなことを大声で言い、自分でも微妙に恥ずかしい。
意味はまぁ伝わらないだろうけど、俺は…桜が見たい。
俺の、真っ白な心の中に。
「何言ってんだ訳わからん!!がっははは!!」
「テメェが聞いたんだろうがぶっ飛ばされてぇかクソ親父!?」
豪快に笑う父さんだが、満足そうに笑った後そのギラついた目を俺に再度向ける。
「ならソイツを見つけてこい、春馬ぁ!!テメェの力で、テメェの欲しいもん全部、手に入れてこい!!」
そう言って、後は愉快そうに笑うだけの父さん。
隣で穏やかにニッコリしている母さん。
アナタ達は"家出"というものを何か大きく勘違いしていませんか…?
フラットがまたも俺の手を引っ張る。
屋敷の門を越える。
「「頑張って来て下さい春馬様~~!!」」
声を揃えてのメイドさん達のお見送りを背中で感じながら、依然として目を死なせている俺。
「……ぱねぇ……」
『人生とは自分を見つけることではない。人生とは自分を創ることである』
これは、バーナード・ショーというお方の言葉だ。
俺はここから、自分を創る事となる。
空っぽな、真っ白な自分から…自分の色を、見つける物語。
こうして俺の物語が、始まった。
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