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「…タイムマシーン…ないかなぁ…。」
ずっと校舎を眺めたまま、麗奈はそんなファンタジーなことを口にする。
「そしたらさ…また、小学生の頃に戻って…ずっと、子供のままでいられるのに。」
「…そんなピーターパン的な事言われても。」
俺もつられて校舎を眺める。
でも…そこに見えるのは、小学生の頃の俺達。
…側にいて当たり前な存在。
中学になり、麗奈は遠くなった。
高校になり、それでも俺達はいつも一緒だった。
「…レンを毎朝起こして登校する必要、なくなるもんね。」
「誰かさんのノロケ話を登下校永遠と聞かされる必要もなくなるしな。」
小学校も同じ。
中学校も同じ。
高校も…同じだった。
そしてこれからは…互いに、違う道を行く。
「…もう一年でいいから…また…毎朝…レンを起こして…登校したかったなぁ…。」
「…まぁ、あと一年ぐらいは…登下校永遠と…お前のノロケ話、聞いてやっても良かったなぁ、俺も。」
もう隣を見ても、そこには"当たり前"がない毎日になる。
俺の部屋の窓から…俺の幼なじみが不法侵入してくる毎日が、過去になる。
あまりにも大き過ぎた存在だった幼なじみは…もう──
少しして、麗奈が視線を俺に移した。
悲しそうな顔で、でも、真っ直ぐ俺と目を合わせて。
「…今までずっと…ありがとうございました。」
そう言い、頭を下げる麗奈。
周りの騒音が聞こえないぐらい、その言葉は…俺の中で響く。
麗奈は顔を上げ、いつもの、10年以上見てきたあの笑顔を…俺に見せてくれた。
強がりじゃなく。
本当に、感謝の想いが伝わるそれを。
…ありがとう、か。
何らしくない事言ってんだよ、バァカ。
って、茶化すのが、俺らだった。
でも、俺も、気持ちは同じ。
「…麗奈。…ありがとう。」
俺も、ガラにもなく頭を下げる。
でもすぐに顔を上げ、俺も笑ってやった。
「お前は、俺の初恋の相手だ。いや…それ以前に、俺が生涯自慢できる幼なじみなんだ。」
幼い日。
コイツに恋をして、ここまでこれた。
まぁそのせいで、色々と大変なメンタルにもなったが…でも、ここまでこれたんだ。
だから、笑う。
何百、何千…散々見せてきたように、ヘラっと、笑う。
「……幸せになれよ、麗奈。」
…俺のその顔が、予想外だったんだろうか。
いつもみたいに、小馬鹿にされると思ってたんだろうか。
麗奈は、目を見開いて、表情を固まらせる。
が、すぐにクスッと笑う。
レンっぽくなぁい、きもーい。
とか、言い出しそうなその顔。
冗談を聞いて、小馬鹿にするように笑うその顔。
でも、次第に、
その眉は、への字に曲がって、
口元も、への字に曲がって、
大粒の"それ"が、その瞳からボロボロとこぼれ落ちる。
「…そう…いうの、って…っ…」
一番、らしくない顔を、俺に見せる。
「…結婚式とかで…言う、セリフ…なんだからぁ…っ…!」
この日に聞こえる騒音に、一人の泣き声が加わった。
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