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電気屋の市崎とは成瀬の友人で「秀さん」「成さん」と呼び合う仲。先日の引っ越しの際、二階のリノベーションの配線やエヤコンの取り付けをしてもらったばかりである。
松岡と入れ違いで玄関にやってきた成瀬に秀さんがヒソヒソと話しかける。
「こんな時間まで一緒にいるんだ」
自分らの関係を詮索されやしないかヒヤヒヤした成瀬は言い訳を捻り出す。
「コーヒーが入ったからって呼ばれたんだ。いつも一緒にいるわけじゃない」
「もしかして、晩飯もいっしょ?」
「そっちの方が温めなおす手間が省けるし、光熱費の節約にもなるだろう?」
「風呂とかどうしてんの?」
「代わりばんこに入ってるよ」
「洗濯は?」
「もちろん自分のだけ洗って2階に干してる」
「事情が重なってこっちへ暮らすようになったって聞いたけど、色々大変そうだな」
「別に」
「ずっと顔を突き合わせるのって息苦しくない?」
「別に?」
「オンとオフの切り替えが出来なくてストレスが溜まんない?」
「別に」
「さっきから『別に、別に』って。ほんまかいな」
「さっきから根掘り葉掘り聞いてうるさいよ。で、何の用だ?」
「ああ、そうそう」と、秀さんは足元に置いた保冷箱を差し出した。
「ヨメさんの親戚からホタテが送られて来たんだ。解凍したらすぐ食べられるそうだ」
ズシリと重い箱を受け取った成瀬は破顔した。
「嬉しい、ありがとう。先生にもおすそ分けしてもいい?」
「お前に持って来たんだから一人で食えよ」
「そういうわけには…… 」
「じゃあ、これから貰い物はいちいち折半するのかよ」
「間借りさせてもらってるし…… 」
「あの人、一人で急患診るのが大変だからお前を呼んだんだろう? なのに、気を使わせるなんておかしい」
「そんな大声出すな」
「飲みに行くときも声を掛けるのか?」
「掛けないよ」
「そもそも夜の外出はできるのか?」
「できるって」
「あいつに呼び出されたら駆けつけなきゃならないんだろう?」
「まあね」
「不自由な生活になっちまったな」
「自分も病気して心細くなったから、同居させてもらってありがたいんだ」
「ごめん。変なこと聞くけどさ…… 」そこまで言うと、秀さんはグイっと成瀬に近づき小声でこう言った
「お前ら もしかして…… デキてんの?」
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