現代の医療では

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現代の医療では

「現代の医療では奥様の治癒は難しいです。」 「では未来だったら治療方法は確立するのでしょうか?」  佐々井ひさかの夫、佐々井良は医師に食い下がった。  2080年の今、医療技術も大分進んで、コールドスリープにより、体を保持できれば未来で治せる治療法も見つかる可能性が高くなっている。    2050年頃からコールドスリープ自体は誰にでも適応することができるようになっていた。  引退した大物政治家などは未来の政治でまた立候補しようと次々とコールドスリープしていた。ただし、保険適用は難病指定や、現在の医療で直せない人限定だった。この場合、病人の回復についてのコールドスリープは前例が少なかった為、国が全額負担でコールドスリープを行っていた。いわゆる治験である。  よって、健康体の人間には適応されず、もしコールドスリープを望むのなら高額の料金がかかることになる。それも、都合の良い時期に目覚めるまで何年かかるのか分からないので全額前払いという訳にもいかないのだ。先に支払えるのは、コールドスリープになるまでのポッドのキープ代とコールドスリープにするための費用のみだ。  目覚めた後の金額はコールドスリープになっていた期間の保管費用と、目覚めさせるための医療費となっている。    妻のひさかはギランバレー症候群を患っていた。免疫細胞が自己の免疫を破壊してしまう難病指定の病気なので、決定的な治療法はなく、対処療法を行うのみだ。  ひさかは呼吸器が侵されてしまい、現在人工呼吸器をつけている状態だ。  意識はかろうじてあるが、とても苦しそうな様子だ。  このままコールドスリープさせてもらい、ギランバレー症候群の治療法が見つかったら目覚めさせ、治療してもらえばよい。  佐々井良はそんなふうに思っていた。今のまま治療法がなくて愛する、まだ若い妻を死なせてしまうのは良には耐えられない事だった。  そして、医師との話し合いの結果、ひさかをコールドスリープさせることに決定が下された。  良はひさかに 「心配することない。また会えるさ。」  と、耳元でいうと、ひさかは苦しい息の下で 「目覚めてもあなたが居ないのでは自分だけ生きるのは嫌。」  と、言った。  良はひさかのそんな気持ちに気づいてはいたが、自分は健康体であり、自分までコールドスリープして、ひさかと同じ時に目覚めるなんていうお金は持っていなかった。  いつ治療法が発見されて、いつ目覚められるかによってコールドスリープの期間は違うのだから。自費の場合目覚めた後にどれだけの請求が来るのかもわからない。  良はひさかにはどうしても生きてほしいと思い、ひさかだけをコールドスリープして未来へ託した。      
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