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その頃、村人たちは村から数百メートル離れた場所へ避難をし、鱒弥と雲雀の両親や凪と子どもたちが高台からその家が燃えている様子を見ていた。 「凪さんの言っていた通りだ。あの村長の家には(たた)りが染みついているって」 「でも、僕らの家や他の村民の住居には問題ないのでしょうか?あの家を焼き尽くせば僕らはまた元の生活に戻れるって……」 「ああそうだよ。彼らが私達を恨んで怨霊と化してもこの村にはしがみつくことはなく他所へ行ってしまうのさ。これは死神からの言伝(いいつたえ)。彼ら化け物は二度と人間になることはない。このように彼らを退治できたことは誰も恨みはせぬ。私達も安心して暮らしていけるから心配ないさ」 やがて、立ち昇る炎は次第に鎮火していき鱒弥と雲雀の家は全焼した。まだ灯があちこちに残るように揺らめいて小火ぼやが野草を焼いている道の向こう側から、二つの影が見えてきたのを村人の一人か見つけよく凝らして見てみると鱒弥が雲雀の遺体を抱きかかえてこちらに向かって歩いてきた。 村人たちはその姿に怯えながらも凪が静かにするように告げて身を潜めながら様子を見ていると、二人は森林の奥地へと向かっていった。 しばらく歩いていくとある煉瓦造りの井戸に辿り着いて、鱒弥は樹々の隙間からこぼれる月の光を眺めては、ふっと含み笑いをして涙を流し、雲雀を抱えたままその井戸の中へ落ちていった。 その後村人たちは彼らのあった家を更地にし、小さな神社を建てて二人とその子どもたちの魂を祀った。平穏な日々が流れていきやがて若者たちが出稼ぎの為村を離れていくと、村も小さくなっていきその後は誰も住み着かなくなっていったという。 そやつらの話はいかがだったかな。 私もその魂と出会っては灯を消すな消すなとせがまれてきてやりきれない思いでいたのさ。だが、彼らの慈愛という意味で言うと人間として生きていたことには悔いはなかったのだろうに。あんなにしてまでも愛し合った仲だ。二度と生まれ変わることができなくともその世で出会えたことがさぞ幸せだっただろう。 ああ、次の訪問者が来たようだ。私はこれで失礼するよ。 どうかそこのあんたも、悔いのないように生きるんだよ。 了
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