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それは昔の話
ふと。本当に、唐突に、夢を見た。
それは、妙にリアリティのある――いや、実際に私が体験した昔の出来事。
あの頃はまだ大好きたった、たった一人の家族である兄と、二人仲良くそして楽しく話をしている、
そんな、
幸せな夢――
「お兄ちゃん、これ、なぁに? 小さいけど、宝石みたいにキラキラしていて、とってもキレイ!」
「さすがフィユ! 鋭いなぁ。
この宝石みたいな石はジュエルと言って、そうだね……。
フィユ、手を出してご覧」
「こう?」
「そう、良い子だね。
じゃあ、しばらく、そのままで」
「?」
私の掌に、兄の手が乗っただけ。
単純なその光景を、私は不思議そうに、ただ眺めていた。
そんな兄の温かい手が離れたのは、僅か五秒後。
「――はい、どう?」
「あれ? 手が温かい……。
すごいお兄ちゃん!
フィユ、さっきまでお洗濯していて手がすごく冷たかったの!
でも、お兄ちゃんが手を重ねてくれただけで、もうこんなに温かいよ!」
「ふふ、これがジュエルの力。この宝石みたいな石――ジュエルを体のどこにでも身につけていれば、いつでも魔法が使える。そんな夢のような石だよ」
「ジュエル? この宝石が?」
「そう。ジュエル」
「本当に、魔法?」
「本当に、魔法だ」
「すごい、すごい!
じゃあ、私も! 私も!
私もお兄ちゃんみたいに魔法使う!」
「フィユ、魔法は、ジュエルがないと使えないんだ。僕は今、この赤いジュエルを持っている。だからこそ、火の魔法が使えたんだよ。
フィユにはまだ早いかな? まだこんなに小さな手なんだもんね。もう少し、大きくなってからかな」
だけど、それだけの説明では――魔法が存在する事実を知ってしまった私が、ジュエルに魅せられてしまった私が、兄の軽い口車などで引き下がるわけもなく、この時はすごくただをこねた。こねてこねて、なんとか私も魔法を使いたいと兄にすがり、願った。
「え〜お兄ちゃんだけズルい! フィユもやる!」
「え、え〜っと……これは練習しないと無理なんだよ。だから、今すぐには無理だよ?」
「やだ! 今やる! 後ろの机に、もっと赤い色の宝石あるもん! フィユ、あれ使うもん!」
「え? あ、あれは――」
内心、しまった!と顔を蒼くする兄を、私は見逃さなかった。
幼心ながらに「我ながらよくやった」とほくそ笑む。
「あれは2カラットのジュエルだよ。僕が今使った魔法より、まだ強力なものだよ」
「からっと……?」
「うん、カラットは、ジュエルの強さを表す単位だよ。僕がさっき使ったのが炎の1カラットの魔法。そして、今僕が持っているのが炎の2カラットのジュエル。フィユがさっき言ったとおり、こっちの方が、色が濃い。カラット数が大きいものほど、ジュエルの色は濃くなるんだ」
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