マイロード、ユアロード

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 でもカラオケの採点を使ったら、私の歌なんて精々八十点どまり。百点近い点数を出す家族や知り合いはいくらでもいた。  絵が上手だから、絵描きになるべきだと思った時もあった。  でも小学校の三年生の時の写生会、私の絵は金賞どころか、銅賞にもかすらなかった。そして実際、選ばれた子たちの絵は私の数百倍上手くてうちのめされたのだ。  作文も、多分他の勉強よりは得意なのだろう。でも、私の作文が文集に載ったことは一度もない。テストの点も、かけっこの速さも――私より上の子なんかごまんといるわけで。 「人より優れてるところなんか、何もないんだもん私。大人になって仕事したって、人の役に立てる自信なんかない。むしろ叱られて、“だからお前はダメなんだ”って上司に叱られて、毎日会社に行くのが嫌になって鬱になるんだよ。で、男の人にもモテないから、いつになったら結婚するんだって家族や親戚からねちねち言われて、いざ結婚したら旦那がダメ夫で……」 「ストップストップストップ!間違ってないけど落ち着け!SNSの見過ぎ!いや間違ってないのがつらいけど!!」  がばり、とソファーから上半身を起こして言う兄。何故かめっちゃ慌てているように見えるが気のせいだろうか。 「ああ、うん……大人って罪深いよな。俺も反省しなきゃって思ったわ。そんなのばっかり子供に見せてたら、子供が大人になるってことに対して嫌な気持ちになっちゃうのも当然だよな。マジでほんと、俺らって駄目だよなあ……」  いや、兄貴に文句を言ったわけでは、と。  私がそう続けようとすると。 「俺、小説の才能が自分にあるなんて思ってねえよ。人より優れてるところなんてなんもないって、そう思ってるのは俺も同じだ」 「え?じゃあ、なんで……」 「人より優れていなかったら、希望を持っちゃいけないのか?そんなことないと思うんだよ。大体、小説なんて簡単に優劣つけられるもんじゃないだろ。そりゃ、公募やコンテストってなったら、大賞とか選外とか差はつけられちまうだろうけどさ。でも本当に明確な面白さや質の基準なんてもんがあるなら……芥川賞や直木賞を受賞した作品は、すべての国民にとって面白くなくちゃいけないだろ?ところが、実際そうじゃない。ああいう最高峰の賞を獲った作品でさえ、面白くないっていうやつはいるんだ」  それは、確かにそうだ。
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