朱に染まる禁断の華〜悪役令嬢である私が、冷酷な王子様に断罪されなかった理由〜

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 暗殺未遂が起きてから3日。  アルフィ様は奇跡的に意識を取り戻した。  後遺症は残らなかったものの、毒の影響で真っ黒だった髪は、白雪のような色へと変わってしまっていた。 「でも良かったですわ。アルフィ様がご無事で……」  安静のためにベッドで横たわるアルフィ様に、私は穏やかな口調でそう言った。  白髪の王子様は(はかな)げに微笑(ほほえ)みを返す。 「エミリーがブランデーに入れられた毒を特定してくれたおかげだ。ありがとう」 「いえ、そんな。私は当然のことをしただけです……」  あの一件で憑き物が落ちたかのように、アルフィ様はすっかり人が変わってしまった。  だけど私にとっては嬉しい変化だ。 「原因は『朱雪草』という薬草でした」  毒の正体は、とある薬草だった。  ただし本来の治療で使用される葉ではなく、その花の方が使われていた。 「その花はアルコールと混ぜることで赤くなり、毒性を持つようになるそうです。アルフィ様が飲んでいたブランデーから、この花の毒が検出されました」  早期に原因が(つか)めたことで、素早く解毒することができた。  もう少し手当が遅くなれば、手遅れになっていたところだったわ。 「しかし、よくエミリーはそのことを知っていたな」 「えぇ。実はシエラお姉様もこの毒で……」 「……そうだったのか」  その薬草は本来、この国では栽培されていなかった。  だから毒のことを知っているのは、ほんの一部の人間だけ。  そしてアルフィ様の暗殺を仕組んだ犯人は……。 「まさか、君の婚約者であるローガンが犯人だったとは」 「えぇ……私もビックリしましたわ。とても優しい御方(おかた)だったのに……」  この『朱雪草』はローガン様を始めとした、クリッド侯爵家だけでしか栽培されていない。  しかも花の毒は漬けてから1日で消えてしまうから、他国から輸入することもできない。  他にもいろんな要因からして、容疑者として上がるのはローガン様しか居なかったのだ。 「本人は最後まで認めなかったようですが……」 「まぁ、そうだろうな。王族殺しは問答無用で縛り首だ」 「ですが、彼はもう……」 「馬鹿な奴め。自死を選ぶくらいなら、最初からやらなければいいものを……」  ローガン様は連行される直前、自害なされてしまった。  よほどプライドが耐えられなかったのでしょう。  自分を殺そうとした者に同情心が湧いたのか、アルフィ様は苦虫を噛み潰したような表情をする。  これまでの断罪と違って、怒り以外の複雑な感情が入り混じっているようだった。 「しかし、証拠として『朱雪草』があること。そして以前アルフィ様が断罪されたオリヴィア様の関係者が、お兄様のお酒に毒を入れたことを自白いたしました」 「……オリヴィアの?」 「どうやら彼女の恨みを晴らしてやると、クリッド家に(そそのか)されたようですわね」  可哀想に、忠誠心を利用されて復讐も果たせず、処刑台送りだなんて……とんだ悲劇だわ。 「ローガンは私を亡き者にし、唯一の王族であるエミリーを妻とすることで、自分が王に成り代わろうとしたのだろう。まったく、浅はかなことをしたものだ……」  アルフィ様にとって、王位なんて呪われた肩書きでしかなかった。  あれだけ苦悩していたんだもの。譲れるものなら、譲ってしまいたいと思っていたはずだわ。 「私は……これからいったい、どうするべきなのだろうな……」  命を狙われ、すっかり弱気になってしまったアルフィ様。  うるうるとした瞳を揺らしながら、私を見上げている。  その姿はまるで捨てられた仔犬のようだ。  でも安心して、アルフィ様。私だけは貴方様を見捨てませんからね? 「えぇ。実はそのことで、私からご相談があるのです」
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