朱に染まる禁断の華〜悪役令嬢である私が、冷酷な王子様に断罪されなかった理由〜

5/8
32人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
 私がローガン様と最初にお見合いをしてから、3カ月が経った。  あれからも何度かお茶会や夜会を重ね、私たちは順調に親交を深めつつある。  ……それに反比例するかのように。お兄様の嫉妬は鎮まるどころか、悪化の一途をたどっていた。 「シエラ! あの男に変なことをされてはいないか!? お前を傷付けるような男だったら、私はクリッド家を潰すぞ!!」 「お兄様、そんなことで侯爵家をお取り潰しなんかにしないでください」  お兄様は自身の執務室に私を呼びつけると、開口一番でとんでもないことを言い出した。  執務机の上には、ブランデーの瓶とグラスがある。  どうやら私が来るまでに、相当飲んでいらっしゃったみたい。 「だが……!!」 「いい加減にしてください、お兄様!!」  まったく……最近のお兄様はずっとこんな調子。  私がローガン様と会う度に、逐一どんな会話をしたのか細かに報告させようとするのよね。  飲むお酒の量も増えているみたいだし、なにやらお薬にも手を出し始めたみたい。  あの仮面の王はどこへいってしまったのかしら……。 「こうなったら私が直々に会って、アイツの本心を問いただした方が良い気がしてきたぞ……」 「おやめください。こんな状態のお兄様に会わせたら、ローガン様の心臓が止まってしまいそうです」  少しでも変な態度をとったら、その場で断罪しそうな勢いなんだもの。  心配してくれる気持ちは嬉しいけれど、さすがに錯乱している今のお兄様を見せられないわ。  それにローガン様は私の大事な人なのよ?  お兄様の嫉妬で奪われてたまるもんですか。  ……はぁ。どうしてここまでポンコツお兄様になっちゃったのかしら。  こんな状態になるのなら、もっと早い段階で、無理にでも強制した方が良かったわね。 「しかし人間というのは、いつ裏切るか分からないんだぞ。みな断罪を恐れ、私の元から去っていく……!!」  グイっとグラスに残っていたお酒を(あお)ると、座った目で私を(にら)む。  これまで信を置いてきた部下を断罪してきたお兄様の言葉には、良い表せないほどの重みがある。 「ふぅん。随分な物言いですわね?」 「……え?」  ――だけど、怒りたいのは私の方だ。  そろそろ、私の堪忍袋の緒が切れる限界だった。 「それは私もそうだと(おっしゃ)りたいのですか?」 「え、いや……シエラ?」  まさか私が怒るとは思っていなかったのか、間抜けな顔でポカンとするお兄様。  自分が何を言ったのか、本当に分かっていないのかしら。  この私に、()()()()()()()()()()()()を言ってしまったということを。 「えぇ、そうなんでしょうね。私の愛をちっとも分かっていないから、そんなふざけたことを仰ったのでしょう」  こんな言い方、失礼なのは承知。  だけどこれ以上、お兄様がボロボロになっていくのなんて見ていられない……!! 「私は()()()()()()()()()()()()()()()とは違います。お兄様はそろそろ、私にお姉様の幻影を重ねるのはお止めになってください!!」 「シエラ!! 何を言い出すんだ!!」 「私の名はシエラではございません!!……もういいでしょう!? 私は妹のエミリー。()()()()()()()()()()()()のですよ、アルフィ様!!」
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!