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「あっ、そうじゃなくて、二年前に先生に命を助けてもらったんです」
普段は幽霊を見かけると、逃げて関わらないようにする怜陽だけど、ずっと会いたいと思っていた相手だったから、無下に出来ないし、何より熊埜御堂先生のことが気になる。
怜陽は初めて、幽霊を相手に話を始めた。
『え? あっ、アンタは確か、バイクの事故で肋骨が肺に刺さってた、鳥塚くん』
「あ、はい。そうです。覚えてくれていましたか?」
『当たり前じゃん。担当した患者さんは、全員覚えているわ。両足複雑骨折だったのに、ちゃんと真っ直ぐ歩けているし、何より元気になって良かったわね』
玲香はとても幽霊とは思えないような、優しい笑顔で微笑む。
「はい。これもすべて先生のお陰です。その節は本当に有難うございました」
誰もいない空間に向かって、ぺこぺことお辞儀をする怜陽を、試験会場に向かう学生たちが白い目で見ながら、まるで危ない人を避けるように、距離をあけて追い越して行った。
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