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また逃げられた side 翔琉
便利な世の中になったものだ。
パソコンさえあれば、どこでも仕事ができる。
それに、引っ越しも業者委託で事前に鍵を預けていれば立ち合いなしでやってくれる。
「莉子が内容証明郵便で退職届を提出してきただと!!」
退職願ではなく退職届。
使用者の承諾は不要で、退職を強行してきた。
民法第627条第1項で退職の申入れから2週間が経過すると雇用契約が終了するとなっている。
プロジェクトメンバーに対しての引き継ぎのやりとりはリモートで行っているが、俺からのコンタクトは完全無視。
退職届が会社に届く日に莉子は翔真を連れて、行方を眩ませた。
郵便に関しては転居届を提出すれば1年間転送されるから、会社に引越し先の住所を伝えていない。
「翔琉さんが……強引に行き過ぎたんですよ」
中高一貫校時代からの友人であり秘書を任せている西原朔弥が、俺の行動に苦言する。
再会の興奮から車内で押し倒してしまったが、その後は紳士的な対応をしたと思う。
莉子が俺の子を妊娠し産んで育てていた事が嬉しかった。
莉子と息子の翔真を大切に愛し守っていくと決めた。
「……勤め先を買収して社長に就任し、住まいの隣に引越してきたら、怖いと思うと思いますよ。それに、毎日のように結婚届にサインさせようとしてたんですよね」
莉子に結婚届にサインして貰おうと101本の赤い薔薇の花束とハリーウィストンのエタニティ仕様の豪華な婚約指輪を贈った。
花束は枯れたから返されなかったが、俺が莉子にプレゼントしたアクセサリー類は、マンションから出ていく前の日にしれっと俺の部屋に置いていった。
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