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逃げる理由
「お母さん、今日からここに住むの?」
「そう。いいとこでしょ」
翔琉くんが接待で翔真のお迎えに着いてこない日に移住を決行した。
移住先は京都。
翔琉くんから離れたいと思いつつ、近くいたのは、もし私に何かあった時に、翔真の事を託せる人が翔琉くんしかいなかったから。
高専3年の時に両親が玉突き事故で亡くなり、祖父母も亡くなっていて、親戚と疎遠。
天涯孤独の私が頼れるのは翔琉くんだけだった。
イブトランはブラック企業。
入ったら辞められない。
だから、内容証明郵便で退職届を提出し、2週間パワハラに耐えて辞めるしかない。
無責任な事はしたくないけど、翔琉くんの前からいなくなるにはこの手しかない。
もしもの事を考え都内で生活していたけど、これだと翔琉くんに見つかった時に結婚を強要されてしまう。
だから、思い切って、都外に出る事にした。
京都に出てきて、しばらくの間は家具家電付き賃貸マンションで生活を送る。
東京に残した家具家電などはレンタル倉庫で一時保管してる。
仕事で使うパソコン類だけ京都に送った。
『杉宮、辞めるならエスアイエムには直接挨拶にいけ!!』
鬼畜な古田チームリーダーがzoomをかけてきて、カメラオンで怒鳴り散らす。
退職日までの2週間はひたすら耐えるしかない。
仕事を部下に押し付け全く自分はやらないから、話が長い。
『10月15日水曜日、午後4時半にアポとってるから、エスアイエムに来い。わかったな!!』
一方的に決められ行かざるを得なくなり、ため息をつく。
エスアイエムのお世話になった担当者には事前に退職する旨を伝えていて、退職届を提出後にもメールを送った。
だから、翔琉くんの策略な気がし、行く気にならない。
エスアイエムに電話をかけたら、『わざわざ退職の挨拶に来なくていいよ』と言われ、ほっとする。
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