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 いつもより、少しだけ早く会社に着くと、あたしは、キョロキョロと辺りを見回した。  ――竹森くんと、顔合わせづらいんだけど……。  恐る恐る社屋に入り、総務部まで駆け上がる。  下手にエレベーターなんて使って、遭遇してしまったら、逃げられない。  あたしは、部屋に入ると、すれ違う人達に挨拶をしながら、三課のスペースまでたどり着いた。 「おはようございます」  既に、長島さんも矢崎さんも、仕事を始めている。  あたしは、ロッカーに荷物を入れて、課長の机を見やった。 「ああ、課長なら、人事に呼ばれたから」 「え、あ、そうですか……」  ――もしかして、あたしの異動のコトだろうか。  不意にそう思ってしまうが、軽く首を振った。  それよりも、今は手伝いの方。 「長島さん、矢崎さん、営業部行って来ますので、よろしくお願いします」 「ハイハイ、行ってらっしゃい」 「こっちは大丈夫だからね」  二人にそう送り出され、あたしは、総務部を出て、階段を下りる。  そして、相変わらず、ざわつきが部屋の外まで響き渡る営業部のドアを開けた。  昨日と同じように、商品発送の仕事を任され、あたしは、営業部と倉庫を行ったり来たりとバタバタだった。  でも、おかげで、竹森くんと顔を合わせなくて済んだけれど、昨夜の衝撃は忘れていられるはずもなく。  頭をよぎっては、首を振りながら弾き出すという繰り返し。  そんなコトをしながら、あたしは、倉庫の発送係のおじさんと二人で、チェックした商品を段ボールに詰めていく。  そして、トラックに乗せたら、また、もらった書類をチェックして、商品をピックアップして――その繰り返し。  終わったら、営業部に戻って、事務の人達から渡された新しい発注書をもらって、倉庫へ。  体力が徐々に削られてしまい、夕方あたりには、息切れがひどかった。 「お疲れ様、佐水さん、今日はあと、これだけよ」 「……ハ、ハイ……」  あたしは、加治主任から発注書を受け取ると、よろよろと倉庫へ向かった。  そして、中を見やるが、先ほどまでいた係の人達は、誰もいない。  駐車場の方から声が聞こえたので、そちらを見やれば、トラックの中で何かやっている。  遠方へ配送のトラックは、もう、出発間近なのだろう。  ――……忙しそうだな……。  あたしは、少しだけ迷ったが、自分一人で書類を抱え、商品棚を見回しながら、商品を探し始めた。  早く一人でも、できるようにならないと――三課が使えないって思われてしまう。  幸い、追加の発注だったらしく、数は多いけれど、三種類だけ。  探している間に、終業のベルが鳴った。  ――あ、ヤバイ。時間、終わっちゃった。  いつも、ほぼ、定時のあたしは、慌てて倉庫を駆け回る。  その間も、頭をよぎるのは、清瀬さんの言葉と表情。  朝は、何事も無いような顔だったけど……あからさまに避けていたのは、バレてるはずだ。  ……でも、申し訳ないけど――平気なカオなんて、できるはずない!  あたしは、首を振りながら商品をどうにか探し出す。  そして、商品番号をチェックして、数を確認しながら台車に乗せる。  そして、組み立てられていた段ボールを取り出すと、発送先を記入して、伝票を一緒に入れた。  すると、トラックに荷物を乗せ終えた、係のおじさんが戻って来た。 「ああ、ゴメン、ゴメン。まだ、商品あったの?」 「あ、ハイ。今日は、これで最後です。一応、見てもらえますか」  あたしは、うなづいて箱を差し出す。 「ハイハイ。佐水さん、だっけ?慣れてきた?」 「――ハ、ハイ」  言いながら、彼は、段ボールの中をサッと見やり、発注書の控えにチェックを入れる。 「よし、ここまでなら、今日の便に間に合うから」 「お願いします」  あたしは、頭を下げると、営業部に戻った。
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