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 ようやく営業部に戻ると、みんな、まだ仕事は終わっていないようで、大体八割方残っていた。  あたしは、加治主任の元に向かい、書類と戦っている彼女に恐る恐る声をかける。 「あ、あの……一応、終わりました……」  すると、彼女は顔を上げ、疲れ果てた表情で微笑んだ。 「ありがと、お疲れ様。今日は、もう、定時も過ぎてるし、上がってちょうだい」 「ハ、ハイ。……それじゃあ……お先に失礼します」 「気をつけて帰ってね」  あたしはうなづくと、すぐに作業を再開した加治主任の後ろ姿にうなづいた。  申し訳無い気もするけれど……これ以上いても、今のあたしは、何の役にも立たない。  部屋を出て、一旦総務部に戻る。  こちらは、既に八割方帰っているようで、部屋は閑散としていた。  中尾課長も帰り支度をしている途中で、あたしは、声をかける。 「お疲れ様です、戻りました」 「ああ、お疲れ様。バタバタしてるみたいだね」 「……ハイ」  苦笑いで返すと、課長も同じように返した。 「まあ、徐々に慣れてもらうしかないけどね」 「……ハイ……」  ロッカーから荷物を取り出したあたしは、部屋に残っている数人に挨拶をしながら、会社を後にする。  一日中、倉庫と営業部を往復していたせいか、もう、筋肉痛が始まっているようで、身体中が痛い。  ……湿布でも貼ろうかな……。  ああ、でも、清瀬さんに湿布臭いとか思われたら――……。  そう思いながら車に乗り込み、エンジンをかける。  発進しようとすると、不意にスマホが震えた。  あたしは、バッグから取り出すと――現れたのは清瀬さんの名前。  ――お疲れ様です。夕飯、作ってありますから。  ――今日は、社長も奥様も、もう帰宅されてます。  まるで、業務連絡のようなそれに、思わず苦笑いが浮かんだ。  ――わかりました。ありがとうございます。  そう、業務連絡のように返し、あたしは、車を出した。 「お帰りなさい、華さん」 「……た、ただ、いま……です……」  玄関のドアを開けると、清瀬さんは、微笑みながら、あたしを迎えてくれた。 「お疲れ様です。すぐに夕飯にしますか」 「え、あ、ハイ。……全員揃ってるなら、そっちが先です」  そう言ってうなづくと、彼はうなづいて返す。  もう、それだけで心臓が痛い。  あたしは、ごまかすように二階へ駆け上がり、すぐに自分の部屋に入った。  ――ああ、もう!  ――あたし、いい加減、心臓壊れちゃわない⁉  既にコーディネートの限界を迎えた部屋着たちを漁り、どうにか見られる服に着替えてキッチンに入ると、両親と清瀬さんが和やかに話していた。  ――……結婚したら……こんな風な光景が、日常になるのかな……。  そうよぎった瞬間、あたしは、青くなった。  ――違う!何、感化されてんの! 「あ、華さん、ご飯盛りますね」  首を思い切り振って思考を戻そうとしているあたしに気づき、清瀬さんが、茶碗を持った。 「いえっ!自分でやりますから!」  そう言って、急いで彼の手から茶碗を奪い取る。  あっけにとられた彼は、けれど、ハイ、と、素直にうなづいてくれて――それが、また、悔しい。  あたしの方が、年上なのに――何よ、その余裕は。  そんな埒も無いコトを思いながら、あたしは、自分のご飯を盛った。
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