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8
昨夜も、今朝も、どうにか清瀬さんを必要最低限にやり過ごし、あたしは、そそくさと支度を終え、すぐに会社に向かった。
今日は、父親も通常仕様だったので、清瀬さんは、一緒に出勤していくようだ。
あたしも、さすがに、連チャンで送迎はキツイので助かった。
そして、会社に着くと、いつものように、すれ違う人達と挨拶を交わしながら、総務部に向かい、荷物を置く。
「おはよう、佐水さん。何か、さっき、二階が妙に騒がしかったけど――聞いてる?」
すると、長島さんが、あたしを見やりそう尋ねたが、心当たりは何も無い。
「え?……いえ、何も」
キョトンとして答えると、彼女は、思案顔を見せた後、言った。
「……何か、トラブルでもあったかしら」
「――……とにかく、営業部行ってきます」
「ええ、頑張ってね」
長島さんにうなづき返し、あたしは部屋を出て、階段を下りる。
そして、ドアを開け、
「――おはようございます……」
こっそりと、そう挨拶をしながら入っていくと、加治主任が慌てたようにやってきた。
「おはようござい……「佐水さん、昨日、キヨマルの追加発注分、発送したわよね?!」
あたしは、目を丸くしながらも、うなづいた。
確か、昨日の最後の仕事だ。
追加で三種類。商品番号も、数も、チェックしてもらった。
そう返すと、彼女は、青い顔で、首を振った。
「中身は問題じゃないの!――発送先、本社の第一センターに送ったでしょ!あれ、東京の第一流通センター宛てなのよ!」
「――え」
瞬間、全身の血の気が引いた。
「キヨマル、流通センターの名前、紛らわしいのがいくつかあるのよ。同じ第一でも、”流通”がつくのは東京なの」
「すっ……すみません……っ……!」
――どうして、気づかなかった⁉
中身のチェックに気を取られて、宛先まで気が回らなかったなんて、言い訳でしかない。
あたしは、青くなったまま、加治主任を見上げた。
すると、彼女も同じような表情で言う。
「朝一番で、キヨマルの方から連絡があって――東京宛ての伝票が入ってるって検品の時に気がついたんですって」
あたしは、口を両手で覆う。
息が上手くできない。
「それで、今、向こうの担当に聞いたら、追加分は全部、関東の方で欠品してる商品だって。週末の分、当て込んで発注したって言ってたのよ」
――昨日のうちに、東京行きのトラックは出ている。
他のトラックも、もう、朝一番に出払った。
次に戻って来るのは、早くても昼前だ。
「今、部長に指示仰いでるんだけど――何せ、キヨマルなんて全国区、大口も良いトコでしょ。担当者に、納品は来週でも構わないって言われても、数も大量だし、信用問題なのよね」
「……す……みませ……」
涙目になりそうなのを必死でこらえながら、あたしは、頭を下げた。
「おい!今から、キヨマル第一流通センター行けるヤツ、いるか⁉」
すると、電話を終えた部長が、部屋中に響き渡る声で言った。
ざわついていた部屋が、一瞬で静まり返る。
「向こうさんは来週でもと言ってるが、そういう訳にもいかない!融通利くヤツいないか!」
「自分、行けます」
手を上げたのは――竹森くんだった。
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