1

5/5
前へ
/195ページ
次へ
 どうにか、後片付けを奪い取ると、無心で洗い物をする。  その間、リビングから聞こえる談笑には、耳をふさいだ。  ほんの半日ほどで、馴染んでいるような気がして、あたしの気分は落ちる。  ――あたしには、絶対できない。  ――、あたしには。  無理して作った学生時代の”友人”とは、今は縁も切れていて、もう誰が何をしているかも、わからない。  会社では、どうにか、同じ部署の人達とやっていけるけれど――やっぱり、どこかで無理をしている自覚はある。  ――けれど――すべて、”普通”であるため、だ。  あたしは、最後に洗った鍋を食器かごに置くと、手を拭いてキッチンを出ようとするが、 「ああ、華、清瀬くんに、風呂の使い方教えてあげて」  アルバムを棚に片付けている父親に、そう言われる。 「……は?」  あたしは、思い切り顔をしかめた。 「コラコラ、女の子がそんなカオするんじゃないの」 「……今時、問題発言」 「まったく、もう。面倒だなぁ。清瀬くんトコのお風呂と、勝手が違うだろうから、軽く説明してあげて」 「……すみません……お願いします」  清瀬さんは、その大きな身体を縮めながら、申し訳なさそうに言うので、あたしは、仕方なくうなづいた。  一旦、部屋に戻り、着替えなどを持って来た彼に、あたしは、お風呂と洗面所の使い方を説明する。 「あんまり、面倒なモンじゃないんですけどね」 「……いえ、壊したら大変ですから」  妙な気の遣い方に、苦笑いしてしまった。  ――何か、見た目をことごとく裏切る人だな。  あたしは、シャワーの使い方まで説明すると、バスルームを出た。  そして、つながっている洗面所を出て、ドアを閉める。  彼は、そのままお風呂に入るようで、出てきたのはあたしだけ。 「――あ」  そうだ、洗濯ってどうするんだろ。  そう、不意に思い立ち、あたしは慌ててドアを開けた。 「――……あの、清瀬さ……」 「――え?」  目の前には、既に、半裸になった清瀬さんの後ろ姿。  そのキレイな背中に、目を奪われてしまう。  けれど、すぐに息を吸いこみ、 「――っ……ぅぎゃあああっ――――っっ‼‼」  力いっぱい、叫んでしまった。
/195ページ

最初のコメントを投稿しよう!

137人が本棚に入れています
本棚に追加