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どうにか、後片付けを奪い取ると、無心で洗い物をする。
その間、リビングから聞こえる談笑には、耳をふさいだ。
ほんの半日ほどで、馴染んでいるような気がして、あたしの気分は落ちる。
――あたしには、絶対できない。
――今の、あたしには。
無理して作った学生時代の”友人”とは、今は縁も切れていて、もう誰が何をしているかも、わからない。
会社では、どうにか、同じ部署の人達とやっていけるけれど――やっぱり、どこかで無理をしている自覚はある。
――けれど――すべて、”普通”であるため、だ。
あたしは、最後に洗った鍋を食器かごに置くと、手を拭いてキッチンを出ようとするが、
「ああ、華、清瀬くんに、風呂の使い方教えてあげて」
アルバムを棚に片付けている父親に、そう言われる。
「……は?」
あたしは、思い切り顔をしかめた。
「コラコラ、女の子がそんなカオするんじゃないの」
「……今時、問題発言」
「まったく、もう。面倒だなぁ。清瀬くんトコのお風呂と、勝手が違うだろうから、軽く説明してあげて」
「……すみません……お願いします」
清瀬さんは、その大きな身体を縮めながら、申し訳なさそうに言うので、あたしは、仕方なくうなづいた。
一旦、部屋に戻り、着替えなどを持って来た彼に、あたしは、お風呂と洗面所の使い方を説明する。
「あんまり、面倒なモンじゃないんですけどね」
「……いえ、壊したら大変ですから」
妙な気の遣い方に、苦笑いしてしまった。
――何か、見た目をことごとく裏切る人だな。
あたしは、シャワーの使い方まで説明すると、バスルームを出た。
そして、つながっている洗面所を出て、ドアを閉める。
彼は、そのままお風呂に入るようで、出てきたのはあたしだけ。
「――あ」
そうだ、洗濯ってどうするんだろ。
そう、不意に思い立ち、あたしは慌ててドアを開けた。
「――……あの、清瀬さ……」
「――え?」
目の前には、既に、半裸になった清瀬さんの後ろ姿。
そのキレイな背中に、目を奪われてしまう。
けれど、すぐに息を吸いこみ、
「――っ……ぅぎゃあああっ――――っっ‼‼」
力いっぱい、叫んでしまった。
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