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プロローグ
「はあああ――――‼??」
隣近所に響き渡る音量で叫んでしまい、あたしは、一瞬で口を手で押さえた。
――でも。仕方ないと思いたい。
眉を寄せるあたしに構うコトなく、電話の相手は続けた。
『だからな、お父さんもお母さんも留守がちだし、半分お前の一人暮らしのようなものだろう?近頃物騒だし、ボディーガード代わりにちょうど良いかと思ってな』
「イミわかんないっ‼‼」
あたしは、怒りをぶつけながら、インターフォンの画面越しに見える男に視線を移す。
戸惑うように、こちらの反応をうかがっているのは――
金色に近い栗色の髪、鋭い切れ長の目。
どこからどう見ても――ヤンキーと呼ばれる類の若い男。
『いや、清瀬くん、見た目そんなカンジだけど、ちゃんとしたコだから』
「そういうコトじゃないっ‼」
あたしは、血管がキレそうな勢いで、スマホに向かって叫んだ。
「妙齢の娘のトコに、何で若い男を一緒に住まわせようと思ったのよ⁉普通、やんないわよね、お父さん‼」
そこまで言うと、あたしは、思い切りスマホをタップし、通話を強制終了した。
遡る事、ほんの五分前。
日曜、真昼間。
不意に鳴ったインターフォンに、あたしは、掃除の手を止め、いぶかし気に画面を見た。
そして、そこに映った姿に硬直状態。
だが、すぐに状況を把握する。
――あ、何か、ヤバイ訪問販売?
居留守を使おうと思ったけれど、たった今まで掃除機の音をガッツリ響かせている。
下手に居座られても困るので、仕方なく応答のボタンを押した。
「――ハイ」
『あ、すみま「ウチ、いらないんで、お帰りください」
被せるように言い放ち、ブツリ、と、通話を切る。
ああいう類は、下手に会話したらダメなのだ。
すると、再び鳴り響くインターフォン。
あたしは、一瞬でイラつき、追い払うために息を吸う。
だが――
『あのー……社長から聞いていると思うんですが……』
その言葉に、あたしは一時停止。
父親を社長と呼ぶ人間は、限られている。
あたしは、警戒しながらも、再び画面越しに声をかけた。
「……父が、何か……」
『佐水社長の勧めで、次のアパートが決まるまで、こちらにお邪魔させてもらう事になった清瀬ですけど……』
その外見からは、想像もつかない程にちゃんとした挨拶で、あたしは、パニックになる。
脳内がバグるわ!何なの、一体!
あたしは、ずり下がって来る眼鏡を直し、頭を振った。
――とにかく、お父さんに事情を聞いた方が良いわね、コレ……。
そう思い、リビングのテーブルに置きっぱなしのスマホを手に取ると同時に、タイミング良く、父親からの着信だ。
――そして、冒頭に戻る。
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