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いつも通り、何事にも全力で張り切る隼人が先陣を切って間引きを始めた。
無駄話なんてしようものなら叱られるかも、と黙々と作業をしていたが、事ある毎に隼人が喋りかけてくる。
小さい芽を抜くなんて可哀想だけど、意外と美味かったよなあ。こんなのが食べられるなんて知らなかったわ。
だが、どうやら千鶴お婆ちゃんが喝を入れるのは葛原さんだけのようだ。
間引きのあいだだけでも三回は背中を叩かれていた。
それでも葛原さんは笑いながら、義姉さんは昔から変わんないな。若い時から何一つ変わんないよ、と二人で昔話を懐かしんでいるようだった。
「ああいうの、良いよな。俺らもあんな風になれるかな?」
「なんないでしょ」
あんな風にって、お婆ちゃんとお爺ちゃんになるまで?
「えー、そうかなあ。案外うまくいくと思うんだけどなあ」
どこまで本気で言ってるのかわからない冗談に、どう反応すれば良いのかわからない。
隼人とこのまま一生こうしているってこと?いやいや、無い。
「ずっと友達でいられるなんて、あるはずないよ」
そうだ。私だって高校でも就職先でも全く友達ができなかったわけじゃない。
一緒にご飯に行くこともあったし、他愛のないメールをする相手だっていた。
それでも、その場だけの友達だった。卒業したら、退職したら、それっきりだ。
何も考えずに目の前の葉を引き抜いた。
「ことりちゃん、それ抜いちゃ駄目だよ」
千鶴お婆ちゃんに言われてハッとした。
「ご、ごめんなさい」
慌てて抜いた葉を土に埋めようと試みたり、一人勝手に慌てふためく。
「仕方ない、仕方ない。次から気を付ければ良いんだよ」
あっさり言うと「そろそろ追肥するから、トシちゃん、肥料取りに行くよ」と立ち上がる。
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