プロローグ

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プロローグ

私の手は、悪魔の手だ。   不妊治療の末、ようやく授かった愛娘の、寝汗の滲んだ細い首に手を掛けようとした母親の手。 「ママぁ、ねんねしないの?」   何をされようとしていたのかも知らない、寝ぼけ眼のことりが、もみじ饅頭な手のひらを伸ばした。 「あぁ、うん。寝るよ。ごめんね、起こしちゃったね」   その小さな手のひらを握り返し、隣に敷いた自分の布団に横になる。 四歳のことりの布団は、大人用の半分しかない。小さなからだ。小さな手のひら。 吸い付くような質感の手のひらを握り返し、胸にちくりと針が刺さる。 「パパは?」 ことりは、私の背にある空っぽのベッドをちらりと見た。 「まだ帰ってないよ」 言いながら、身体に緊張が走る。 精一杯の穏やかな笑みを貼り付けた私の頬に、ことりの右手が触れた。   柔らかくて、あたたかい。   私に向けられる、世界でたった一つしかない優しい手が、するすると頬の上で円を描く。 「ことりは、ママだいすき」 「ありがとう」   ママもだよ――口にしようとしたその時。 限界まで張りつめていた心の琴線が、ようやく少し緩んだ瞬間。 鍵の音と玄関の開く音がして、反射的に布団から飛び起きた。
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