魔王&ビーナス

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魔王&ビーナス

「グワッカカカ、少々おとなしかったかな。魔王が降臨するには」 「ふざけんな。どこがおとなしいんだよ。どんだけ騒々しいんだ。他人の迷惑を考えろよ!」  すぐに愛娘(まなむすめ)のビーナスは魔王にクレームをつけた。 「カッカカッ、もう少し派手に参上したかったがさすがに今のご時世だ。火炎噴射を使うパフォーマンスは慎まんとなァ」  これでも魔王は遠慮しているようだ。 「あのなァ、なんだよ。火炎噴射を使う演出ッて。大げさに登場してきてMステでライブパフォーマンスでも始める気かよ」  ビーナスも呆れて肩をすくめた。 「グワッカカカ、この程度のショボいパフォーマンスしか出来ないんじゃ。最近はほらァ、なにかとコンプライアンスが厳しいのでなァ」  魔王も照れ笑いを浮かべた。どうやらこれでもコンプライアンスを気にしているみたいだ。 「コンプライアンスッて。どんな魔王だよ。それよりも、まさかその恰好でテレビ局まで移動する気なのか?」 「ああァ、これか。吾輩の正装じゃからな。魔王の戴冠(たいかん)式にもこの(よそお)いで出席したんじゃァ」  まるでランウェイを闊歩(かっぽ)するモデルのようにヒラリとマントを翻した。 「はァ、今日はオーディションなんだろう。そんな派手なメイクで出る気かァ?」 「当たり前じゃァ。これが吾輩の素顔なんじゃ」  魔王は当然の如く胸を張ってみせた。 「あのなァ、どこの閣下だよ。聖飢魔IIのデーモン閣下か?」 「グワッカカカ、しかしこの辺も様変わりしたもんじゃ。ついこの前までこの辺り一面田んぼばかりだったのに」  魔王は懐かしそうに辺りを見回した。 「いつの時代だよ。田んぼばかりッて。江戸時代かよ!」
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