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第1層、西部。多数の天使と悪魔が交戦していたが、悪魔の方が少し押され気味だった。それを見てアムルタートは呟いた。
「クシャスラさんが言ってた通りでした。左右から攻撃すれば敵の戦力をある程度分散できると……」
アムルタートは目を細めて槍を構える。アムルタートは本能的に感じていた。
(それにこの感じ……私がいるべき場所は、恐らくここだ)
そう思った刹那、足元からせり上がってくる力を感じた。
「来る!」
即座に己の能力――草木の成長を促す力を使い、地中でそれを止めた。
「……やっぱり、あなたですか」
くすくす、と笑う声が聞こえる。アムルタートには聞き慣れた、それこそもう何万年も聞いてきた声だ。
「やはり止められたか。まあこうなる事は予測してたけどねえ」
その場に突如、魔王ザリチュが姿を現した。潜伏していたのではなく、下層から魔術で転移してきたのだ。
ザリチュはけらけらと笑い、杖からぶら下がったフラスコを揺らしながらアムルタートを見る。
「折角だから登場と共にキミの部下を毒草の栄養にしようかと思ったが、いやはや……」
そこまで言うと、不敵な笑みをアムルタートに向けた。周りの天使と悪魔はそれを見て後ずさる。
「思うようにいかないものだ。君がいると特に、ねえ……」
「当たり前でしょう。もうずっと昔から戦ってるんですから」
アムルタートは睨むようにザリチュを見据え、槍を構える。
「おや。木の巨人は出さないのかい」
「今の貴方は、すぐに枯らすでしょう?」
「おお、怖い怖い。君、ハルワタートにもずっと言われ続けてるんじゃないかい? もっと肩の力を」
そこまで言ってザリチュは横に飛んだ。そうしなければ、アムルタートの槍に切り裂かれていただろう。
「おっと、本気のようだね。我々が決着をつけるのは、まだずっと先だろう?」
ザリチュが杖を振ると、先端に付いたフラスコから液体が撒かれる。
「かと言ってこのまま放っておく訳にもいきません。前線基地手前に毒草畑を作られるのは止めて欲しいので」
アムルタートは高く跳び、手に木で出来た手槍を出現させてそれを投げ、地面に突き刺した。ザリチュの力で芽を出し始めていた毒草の極彩色が変わり、周辺は害のない草によって緑色に染まっていく。アムルタートの力により、毒草の毒を浄化したのだ。
地面に着地し、アムルタートは槍を振るってザリチュと向き合う。
「倒せずとも、あなたは私が食い止めます!」
ザリチュはアムルタートを見て笑う。
「相変わらずだなァ。まぁいいさ」
ザリチュはそう言って杖を振ると、足元の青々とした草が枯れていく。代わりに毒々しい色をした草が芽を出し始めた。
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