第二話 善と悪の軍団

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同時刻。第1層、東部。 「っと……」 ハルワタートは強力な一撃を横にかわし、攻撃の主から距離をとる。 「相変わらず惚けたツラしてるくせに、こういう時は早ぇな」 「そりゃあキミとは長いからね。ちゃんとやらなきゃまずいもん」 ハルワタートが対峙している悪魔――タルウィは呆れたように息を吐いた。 「まあ、昔っから手の内が割れてんのはお互い様だな」 「そうかも。でも、今回は違うよね?」 「……」 ハルワタートが手にしたトライデントの柄で地面を軽く叩くと、岩さえ穿つほどの圧を伴った水が噴き出しタルウィを襲った。  タルウィは避ける素振りを見せない。目はハルワタートが操る水を見ている。 「……悪いな、今は存分に使わせてもらうぜ」 タルウィが呟くと、僅かに冷たい風が吹いた。その瞬間、ハルワタートが呼び出した水が一瞬で凍った。ハルワタートは凍った水を見て、次にタルウィを見た。 「なんで熱の魔王であるタルウィが、この力を使えるの?」 「ちょっとした事情だ。少なくともお前には関係ねぇ」 「あるよ。僕だけじゃない。これ、僕達アムシャ・スプンタ、そしてダエーワにも関係あるんじゃないかなあ」 ハルワタートはいつも通りの間延びした口調だが、目はタルウィを真っ直ぐ見ていた。タルウィは言い逃れできないことを察していた。  ハルワタートは常にマイペースでのんびりとしているが、ただの馬鹿では無いことはタルウィが一番よく知っている。彼女の慧眼ぶりに何度ペースを崩されたか。  そんなタルウィの胸の内を知ってか知らずか、ハルワタートは続けた。 「……この冷気、アンリ・マンユのだよね?」 その言葉にタルウィは僅かに顔を顰める。 「だとしたら、何だ」 「アンリ・マンユが作った16の悪。その内の二つである冬と極寒。色んな理由でキミが使えるはずないのに」 「……」 「……やっぱり、ルシファーが関係してるの?」 言い終わるか否か、タルウィはハルワタートに一撃を叩き込もうとナックルブラスターに熱を込めて殴りかかる。 「前から思ってるんだけどさ、キミって嘘つくの下手だよねえ」 ハルワタートはトライデントでその一撃をいなし、後ろに下がった。 「それがどうした……!」 「キミらが脅されてるのは分かってるよ。じゃなきゃ、ダエーワ(キミら)はこんな事しないはずだもん」 「……だから、どうしろってんだ」 タルウィが強く拳を握ると、周囲の温度が急激に上がり始めた。その顔には、怒りと悔しさが滲んでいる。 「ルシファーに逆らえって? お前らと仲良く協力して取り戻そうってか? ンなことすりゃどうなるか、お前ならわかンだろ」 「……まあ、そうなんだけどさ」 「なら、最初(ハナっ)から言うんじゃねえよ!!」 地面がえぐれる程の力で地面を蹴り、タルウィはハルワタートとの距離を一気に詰める。ハルワタートは即座に防ぐかわすが、一瞬でも遅れていたら、大岩を砕く一撃をくらっていただろう。 (やっぱり。アンリ・マンユは捕らえられてるだけじゃなくて、力も奪われてる。とことん弱体化させられてるんだ) 絶え間無く連撃を放ってくるタルウィに、ハルワタートは防戦一方だ。 (なら、僕らがするべきは) タルウィの一撃を弾き、後ろに跳んで距離を取った。 (……時間稼ぎだ)
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