第二話 善と悪の軍団

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天界、第四天。下級の天使がクシャスラの元に膝をつく。 「クシャスラ様、地獄第2層への道が開けました」 目を閉じていたクシャスラは天使の報告を聞き、目を開ける。 「分かった。……全軍、往くぞ! 私に続け!」 剣を抜き払ったクシャスラの声を聞き、天使達は声を上げた。ねじ曲がった空間の先は地獄に続いている。クシャスラと天使達は臆することなく地獄の2層目へと進軍を開始した。 クシャスラとその軍は破竹の勢いで悪魔達を蹴散らし、進んでいく。だが、クシャスラはある地点で突然足を止めた。 「全軍、止まれ!」 その一声で天使達は進軍を止めた。クシャスラの眉間には皺が寄っている。 「……来る!」 即座に防御の構えを取ると、突然クシャスラの剣と何か――誰かの剣がぶつかり合った。その剣の持ち主は、これ以上ない程に喜びの笑みを浮かべていた。 「待ちわびたぞ、クシャスラ!!」 「やはり来たか、サルワ……!」 クシャスラは剣を勢いよく払い、サルワを押し返した。サルワは地面を滑り、歓喜の笑顔をクシャスラに向けている。 「当然だ! 戦場にお前がいるならば、俺はアンリやアカ・マナフに止められてでも、意地でもそこへ向かうからな!」 「まあ、こうなるだろうとは思っていたが……」 クシャスラは自身の軍を見て、声を張り上げる。 「お前達は進軍を続けろ! 奇数番号の隊長の命に従え!」 統率の取れた兵達は皆、同時に声を上げて前へと進み始める。 「ああ、それなんだがな、クシャスラ。今回はそうもいかないのだ」 珍しく落ち着いていながらも、はっきりとサルワの声がクシャスラの耳に届く。  すると兵士達の勇ましい雄叫びは、まるで我を失ったかのような怒号や叫びへとみるみる変わっていく。そして進軍を止め、あろう事か仲間同士で戦いを始めたのだ。 「!?」 その様子にクシャスラは動揺を隠せなかった。対してサルワは、その場の様子を見て眉根を寄せていた。 彼らはクシャスラの加護、秩序を司る力によって、精神攻撃への耐性が高い。その上厳しい訓練も受けており、心身ともに強靭になっている。サルワの無秩序の力を受けても行動は封じられるが、このような同士討ちを行うような事は無いはずなのだ。 「サルワ、貴様……!!」 「諸事情でな。今回はこういった事もせんとならんのだ」 言い終わるか否か、クシャスラが振り下ろした剣を、サルワは後ろに跳んで回避した。剣は地面に深々と刺さっている。 「だが、これは俺としても想定外だった。まさか、とは思っていなかったんだ」 「何が言いたい……」 地の底から響くような声を絞り出し、クシャスラは剣を地面から抜いてサルワに殺意のこもった目を向ける。普段のサルワならば、このようなクシャスラを見れば元から大きい声を、更に大きくして歓喜しただろう。  クシャスラは感情を荒らげ、サルワの方はやけに落ち着いている。このような光景は、普段ならばありえない。  殺意を隠しきれないでいるクシャスラ、叫びながら同士討ちを行うクシャスラの軍。それらを見て、サルワは首を横に振った。 「……いや、少々口が過ぎたな。さて」 剣を構え、クシャスラとサルワは真正面から向き合う。 「例え一時でも、せめて、今のお前との戦いを楽しもうか!」 「ほざけ……この、痴れ者がぁ!!」
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