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地獄、第3層。後方の高い丘でウォフ・マナフは顔を顰めていた。
「アールマティ。これ、どう思う?」
ウォフ・マナフは、俯いて暗い顔をしているアールマティに視線をやった。
「これは戦争だというのは、わかっています。多くの犠牲が出ることも……覚悟していました」
「そうだね。僕としても戦いは不本意だけどさ。向こうはやる気だったし、避けるのは不可能だったろう」
「……それでも、まさか」
アールマティは顔を上げ、ウォフ・マナフも前方の光景を見る。
天使と悪魔の軍が入り乱れている。だが、天使と悪魔、双方がひたすらに目の前にいる者――敵味方関係なく、殺しあっているのだ。
「互いに、味方同士で……このような……!」
「想像以上にえげつないことしてくるね、ルシファーは。あの悪魔達、見たところアンリ・マンユの軍のだよ」
「なんてことを……!」
ウォフ・マナフは腕を組み、真剣な顔で戦場を見ている。
「少し確認してみたんだけどね。彼ら全員、周りの全てに抱いてるのは、不信感と悲観だよ」
アールマティはウォフ・マナフの横顔を見つめる。普段の穏やかな様子は無く、冷静に前を見ている。
「うん、言いたいことは分かる。あいつ……アカ・マナフもあると思う。でも、確実に彼の力だけじゃない」
アールマティは悲しげな目で遠くを見る。
「えぇ……タローマティ。わたしと対になる堕落を司る魔王。ですが、これは、彼女のやり方ではありません」
「そうなんだよ。確かにあの二人は僕らと同じ、指揮官のタイプだ。けどアカ・マナフは罠を仕掛けて自軍の被害を最小限にする。後は敵だけ善悪の区別をつかなくさせて、戦わずに勝てる方法をやる様なやつだ」
「タローマティも、戦わずして勝利を得ようとしますが……彼女のやり方は、相手を堕落させて戦意を無くすやり方です」
ウォフ・マナフは小さく頷き、杖を振るう。鐘の音が辺りに響き、ある程度の天使が正気を取り戻すのが見えた。
「僕の言葉を聞ける者は下がって! 一旦退いて立て直すよ!」
ウォフ・マナフとアールマティのいる拠点へと向かう天使達。正気を取り戻せずにいる天使と悪魔が、それを追ってくる。それを見てウォフ・マナフは暗い顔をした。
「……アール、ごめん。頼むよ」
「……分かりました」
アールマティが撫でるように腕を横に払うと、周囲に無数の光の小弓が周りに展開される。アールマティが手にした大弓を上に向けて矢を番えると、小弓も同じように上を向き、光の矢を番えた。
「どうか、安らかに……」
小さく呟き、上空へと弓を放つ。同時に無数の小弓からも矢が放たれた。
大体3秒。正気を失っている者たちに、豪雨のように矢が降り注いだ。天使も悪魔も関係無く、撤退する天使を追うものは矢の雨に撃ち抜かれた。
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