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一方、反対方向ではその様子を二人の悪魔が見ていた。
「やっぱりアールマティに一掃されたわね。アイツ、戦いは嫌と言っているけれど、その実はこれだもの」
そう話す女性の姿をした悪魔は、クリーム色の長い髪を後ろで左右に分け、下でまとめている。身にまとっている、東洋の踊り子のような服が風に揺れた。
「貴女も大概ですよ、タローマティ。面倒と言っておきながら、そのアールマティと互角に戦えるんですから」
タローマティと呼ばれた悪魔は溜息をつき、怠そうに答えた。
「あたし達はそういうものでしょう。相対する者とは必ず互角になる。昔からそう決まってるじゃない」
その言葉にアカ・マナフは少し口角を上げた。
「皮肉なものですよね。正義は必ず勝つ、なんて言われてますが、善と悪は必ず互角になると決められているのですから」
「アンリが言ってたじゃない。結局は勝者が正義を名乗る資格を得るもんだ、って」
タローマティは肩をすくめた。
「悪の権化が、そんなこと言うんだから」
「そうですね。……では、一つ質問を」
アカ・マナフは目を細め、真剣な顔でタローマティに問いかけた。
「この戦争、現段階で最も悪者として見られている者は誰なのでしょうか」
「……それ、正しくは、怒りや憎悪を向けられているのは誰かって話じゃないの」
「えぇ、まあ」
「そういうことなら、間違いなくルシファーね。天界は勿論、今のあたし達にとっても」
そう言って、タローマティは自分達の部下が争い、倒れていく光景を見る。
「では、その最も悪者として見られているルシファーに、敵……悪として見られている天界、そして神はどうなるのか。そう聞こうとしてたでしょ。……それこそ、勝った者が正義よ」
その返答にアカ・マナフは苦笑いをする。
「全部答えられてしまいましたね」
「あのクソガキの歳の何倍もの付き合いよ? 分かって当然でしょ」
アカ・マナフは鉄扇で口元を隠しながら、陰惨な戦場に視線を移した。
「それもそうですね。付き合いに関しても、こんな事起こした上に、私達を捨て駒として扱うルシファーがクソガキだというのも、全て同感です。……ドゥルジやサルワ、ザリチュに仕事を増やされる方がマシな出来事が存在する、ということを教えてくれたことには感謝したいですがね」
アカ・マナフのわざとらしい言い方に、タローマティは怠そうに溜息をついた。
自分達のいる地点から西の、かなり離れた場所で起きた爆発には目もくれず、鳴り響いた轟音にも動じずに、二人は会話を続ける。
「そのドゥルジがあんなになってるんだもの。あんたがイラつかない訳ないでしょ」
「……出る前に言ったことを、覚えててくれるといいのですが」
「大丈夫よ。ドゥルジは戦闘狂だけど、馬鹿ではないのも知ってるでしょ」
アカ・マナフの、鉄扇を持つ手に力が入り、こめかみに青筋が立つ。
「そうですね……! 結果としては良くても彼女、やり過ぎるきらいがあるのも! えぇ、思い出すだけで胃が痛くなりそうなほど知ってます! あの若輩者の歳の何倍もの年月も前から!! えぇ!! ああサルワもでした!!」
「(……地雷踏んだわね。まあこの後のことを考えると、感情的になってもらっておいた方が良いか)」
立て続けに仲間や同僚――勿論その中にはタローマティも含まれている――の愚痴を、怒りをぶちまけながら吐き続けるアカ・マナフの様子に、タローマティは半分呆れ、半分同情した。
「(なにより、こうなったアカ・マナフを止めたり慰めるのは面倒だしね)」
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