第三話 乱戦

2/7
前へ
/37ページ
次へ
第4層、北。第5層への入り口付近では混乱が起きていた。 「ほ、報告! 悪魔と交戦していた後方部隊が突如壊滅したとの事! 天使悪魔、共に被害は甚大です!」 それを聞いたアズラエルは眉間に皺を寄せた。 「誰がやったかはわかっているのか?」 天使は首を横に振った。 「あれ程の事が出来る天使や悪魔がいたならば、気配などで分かるはずです。遠距離から魔術を叩き込まれた、というのがまだ現実的かと」 「……そうか、そうだな。ルシファーの軍ならやってのけるだろう。報告ご苦労」 「はっ!」 天使が去っていくのを見て、アズラエルは溜息をつきながら苦笑いを浮かべた。 「サマエル、君のところのは本当にとんでもないな……」 やったのが天使や悪魔ならば、特定はできた。だが死の天使の者達は、天使でも悪魔でもない。  正確には、罪を犯し死んだ人間と上位3名――ドミエル、サバオト、エラタオル――がそれにあたる。捕縛された悪魔や堕天使、自ら入隊した天使は特定されるだろうが、名のある者が死の天使に入る事はまず無い。  そのため今回のような事の判断を難しくさせているところが、死の天使の強みの一つだった。 「これは、きっとドミエルだろうな」 サマエルとの付き合いが長いアズラエルは死の天使の事をある程度知っていたし、彼らが一筋縄ではいかないことも理解していた。上位3名に至ってはアムシャ・スプンタのメンバーとやり合える程なのだから、今回の戦争では大きな戦力になるだろうと思っていた。最も、このような形でとは思いもしなかったが。 「私の部下を巻き込んだことに関しては、しっかり問い詰めなければな……」 敵に責任転嫁するサマエルの姿が目に浮かぶが、こちらも部下をやられて黙っていられはしない。アシャやイブリースがこの場に居たら、眉間に皺を寄せて腕を組み、笑っているアズラエルから即座に離れ、数日ほどサマエルには近づかないようにするだろう。イブリースに至ってはほぼ確実にサマエルを売る。 この件に関しては後に『問い詰める』として、第5層への入り口で待機するアズラエルの軍は、ラジエルとその軍と合流する手筈になっていた。最初はそのような予定はなかったが、急遽そのように決まった。  第5層、もしくはその付近である4層に、魔王ベリアルが潜伏しているらしい。 (もし本当なら、合流を急ぎたいが……) いくらアズラエルとその精鋭たる軍とはいえ、かのベリアルとやり合うのは少々分が悪い。ましてや、今しがた戦力を減らされたのだから。 (合流次第、5層へと向かう予定だが……ベリアルがそう簡単に合流させてくれるかどうか) 待機を初めてからそれ程していないが、あまり時間がかかれば気づかれる。そうなれば複数の上級悪魔が集まりかねない。いくらアズラエルとはいえ、流石にそのような状況になっては勝利は絶望的になる。アズラエルに僅かに焦りが生じ始めていた。
/37ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加