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後ろでそれを見ていたサマエルは呆れたようにため息をついていた。他はみな武装しているが、サマエルだけはいつもの服装だ。
「正義ね……アシャ、スプンタ。お前らどう思う?」
アシャは難しい顔をし、スプンタ・マンユは少し険しい顔をする。
「どうって……まあ、天使達の士気を上げるにはああ言うのが一番なんだよな。俺個人の意見としては、向こうには向こうなりの正義があるからどうとも言えねえけど……」
アシャはちらりと隣のスプンタを見る。
「仕方の無いことだ。悪がなければ善は在れない。遥か昔からの……それこそ、私達が生まれた時からの常識なんだ。彼ら、悪魔達を悪しきものと決定づけるのは、おかしい事じゃないよ」
「だとしても、先程の発言は謝らなければならないだろう」
声の方を向くと、ミカエルがこちらに歩いてきた。
「ミカエル……」
「確かに、私は悪魔は悪しきもの、打ち倒すべき敵だと思っている」
「……分かっているよ。君は昔からそうだからね」
スプンタは優しく微笑むが、それが無理して作ったものであることは明白だ。
「……だが、個人の関係性を否定する気は無い。スプンタ、貴方とアンリ・マンユの関係性はよく知っている。如何なる理由だろうと、アンリ・マンユと向き合うのはスプンタ・マンユだ。余程の事がない限り、私はそこに首を突っ込むつもりは無い。だからこそ彼らの士気を上げるためとはいえ、先程の発言を謝罪させてくれ」
そう言って頭を下げるミカエルに、スプンタは慌てた。
「そ、そこまでしなくても、とりあえず頭を上げてくれ。確かに私は善の存在として彼……アンリ・マンユとは相対してるわけだし」
「しかし善と悪は互いがなければ成り立たないもの。アンリ・マンユとその配下たるダエーワなくしてスプンタ……いや、アムシャ・スプンタやそれに連なる者たち、そしてこの世界は正しい形であることは出来ない」
正しい形、という言葉にサマエルは僅かに顔を顰めた。
「悪は善なるもの……愛や生命を脅かそうと何度も立ち塞がる。悪があるからこそ、人間も私達もそれに屈するまい、愛するものを守ろうと立ち上がれる。……そうでなければ、スプンタ。貴方は今回の聖戦に出撃を志願しなかっただろう」
ミカエルの言葉にスプンタは困ったように笑った。
「やはり君には全てお見通しか。うん。そうだね。今回、私はあくまで私のために戦うつもりだ」
スプンタの優しくも強い意志の宿る声と目に、ミカエルは頷いた。
「……それでこそ貴方だ。スプンタ・マンユ」
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