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(本気で行くしかないか……!)
一旦ベリアルから距離を取り、槍の柄で地面を強く突いた。
地面が揺れ、隆起していく。隆起した土は、徐々に人の形をとっていく。アズラエルは後方の部下に目をやり、声を上げた。
「ラジエル達が来るまで、防衛に専念してくれ! ベリアルの相手は私がする!」
「わ、分かりました!」
人の形をとる土を見て、ベリアルは呑気な声を漏らしながらそれを見上げていた。
「おー、ゴーレムか。アズラエルのは久しぶりに見たな」
アズラエルは大槍を構え直し、ベリアルに向き合う。
「しょっちゅう使う力でもないからな」
「アダムを思い出すから? 神も嫌な奴だよなぁ。アズラエルにあんな事したのに、土塊の人形を作る能力を与えるなんて」
「……」
鋭く睨むアズラエルに、ベリアルはけらけらと笑って返す。
「おっと、悪かったって。でも事実だろう? 実際、昔は悩んでいたじゃないか」
「今はもう昔の話だ。アダムと私が作り使役するゴーレムは別物だ」
「分かってるさ。それでも神に対して思うところはあるだろう? 例えば……そうだ、ルシファーが天界に行った時とか」
「何の話だ」
警戒を崩さないアズラエルに、ベリアルは片眉を上げておどけてみせる。
「下級の天使で勝てるはずないのに、乗り込んできたヤツらの相手はそいつらにさせる。一方で大きな力を持つ上級天使は自分を守るのに集中させる。指揮を取らせることもなく、下級共は無駄死にしていく。……天使を集結させなくても、神は自力で身を守れるはずなのにな?」
「……」
「あぁ、でも聞いたぜ? サマエルだけは違ったそうじゃないの。ベリトを撃破し、引き分けとはいえルシファーを撃退した」
そう言うと、ベリアルは背筋が凍るような笑みを浮かべた。
「そういう話になってるそうだな? 相変わらず天界は悪魔以上に嘘が上手い」
「……」
「……なあ、アズラエル。お前は本当にそっちにいていいのか?」
「……何?」
「確かにこっち側も嘘が多い。だが、そっちほどタチの悪い嘘ばかりじゃないし、そもそも嘘しかない訳じゃない」
ベリアルは肩をすくめ、同情するような目でアズラエルを見た。
「清廉潔白に見えてその実は欺瞞と虚実に塗れ、神の絶対的な力で継ぎ接ぎだらけの一枚岩にさせられている天界。対して、欺瞞と虚実は多いが各派閥に分かれ、その中ではそういった事は意外と少ない地獄」
ベリアルは深く息を吐くと、首を横に振る。
「もうとっくの昔に分かってんだろ? どっこいどっこいだって。場合によっちゃあ、天界の方がタチが悪い。イブリースやルシファーの堕天もそうだ。天界の方が罪にまみれているのに、原因を作ったのはあちら側なのに、地獄や俺達のせいにされる」
「ソドムとゴモラが滅んだのも、結局はこちらのせいだと?」
「いや。あれは違う。俺なりに人間を試したのさ。最初から俺は堕天覚悟であれを行った」
いつの間にか、ベリアルの表情はうんざりとしていた。
「まあ人間が想像以上に堕ちやすかったってのもあるが、俺が失望したのは天界の決定だ。正すことなく、都合が悪いから、気に入らないから、全て焼き尽くした。まあガブリエルやミカエルは意を唱えたって聞いたが……」
「案外優しいんだな、お前は」
「人間のことは少し気に入ってたのさ。最初からね。だから俺は堕天して正解だったと思ってるよ」
アズラエルはベリアルを見据え、槍を構え直す。
「……確かに、天界が全て正しいとは言えない。私の立場で言うことでは無いがな」
「……」
「それでも、私はそちらにつくつもりは無い」
「……それも、神への忠義か?」
ベリアルの言葉に、アズラエルは少し笑った。
「聖戦が終わったら、友人たちと飲みに行く約束があるからな」
アズラエルが駆け出すと同時に、ゴーレムがベリアルに襲いかかった。
ベリアルは片手で頭を抱え、わざとらしくため息をつくと、冷たい目でアズラエルを睨んだ。
「……残念だよ、アズラエル」
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