第三話 乱戦

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第5層、西の崖の上からコートの男が下を見下ろしながら通信を行っていた。 「サバオトはそのまま真っ直ぐの方角が薄いから直進で。エラタオルはちょっと東の方よった方がいいねぇ」 男はしゃがんで周りを見ながらぼやく。 「にしてもまあ、順調なのかねぇ? 少しずつとはいえ天界軍もぼちぼち来てる。ただまあ『八魔将』っつったっけ。アイツらの軍が見当たらないのが気にかかっけど……」 男は顎に指を当て、考えるようにして息を吐いた。 「いるとすりゃあ、ルシファー領地……本拠地の『万魔殿(パンデモニウム)』周辺とこか?」 『万魔殿(パンデモニウム)』は地獄の第6層にある、ルシファーの居城だ。力を持つ悪魔は自身の城や館などを作ることが多いが、万魔殿(パンデモニウム)は大きさ、設備、どれもが地獄でも上位に入る。 「オマケにその城下町? みたいなとこもそれなりにデカくて複雑だし。つーか、そもそもルシファーの領地が広すぎんだよなぁ」 ぶつぶつ言いながらも、サバオトとエラタオルへの情報提供は欠かさない。しかし男には気にかかることがあった。 (下に付かされてるダエーワの奴らじゃなく、ルシファーのとこの動きが全然無いのが気にかかる。本陣の防衛って事にすんだったらまあ、ありかもしれねえが……) 先日、領地内に潜入して得た情報を考えると、腑に落ちない部分があった。 (知ってる範囲でのルシファーの性格上、本軍を守りに置き過ぎているような。あれだけの数だ、本気で勝つならもっと前に出すべきだろ) ルシファーの配下になっている悪魔は多く、その中には力の強い悪魔もいる。更には知恵に長けたもの、戦闘に優れたものなど、多種多様だ。それを束ねる将に、ルシファー直属の八名の魔王『八魔将』。そしてルシファー本人。軍と同じか、それ以上にルシファー単体の力は恐れられている。  力が全ての地獄では、大魔王を名乗る悪魔の中ではルシファーが最年少であることなど意味が無い。詳細不明とはいえ、アンリ・マンユが負けたというのは事実だ。現在、地獄最強はルシファーであるだとか、天界は今度こそ落ちるだとか、別の派閥でも噂がされていた。 (けどこのやり方じゃ攻め手が緩い……何なら、アンリ・マンユとジャヒーをそれぞれ万魔殿の上層と地下に閉じ込めるなりすれば、あとは一点を守ればいいだけのはず) その事に気づかないはずがない。男は妙な感覚を覚えていた。 (これで本当に勝つつもりなのか? 本気で勝つなら舐めプなんかしてる場合じゃねえだろ。それとも何か、他に隠してんのか……)
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