第三話 乱戦

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男は何かを察し、即座に回避行動を行った。一瞬前まで立っていた場所に、何かが凄い力でぶつかり、土煙を上げた。 「へぇ、今のをかわすたぁ。しかもギリとはいえ気付くとはな」 土煙にむせながら、男は引きつった笑みを浮かべる。 「オイオイ、ウッソだろ……。なぁーんでこんなとこいんのよ……」 土煙の中で人影がゆらりと立ち上がる。その人物は、くつくつと喉奥で笑っている。 「なんで? そんなん決まってんだろ」 黒い大剣の一振で、土煙が全て払われた。 「俺の気分。そんだけだ」 男は自分の影に手を入れ、二本のダガーを逆手に持って構えた。 「大魔王ルシファー様、このようなへんぴな場所に何用で……?」 ダガーを影から出したのを見て、ルシファーは微かに笑う。 「へぇ、お前面白い能力持ってんのな。まあ、そうだな……強いていうなら」 ルシファーは大剣を担ぎ、獲物を見るような目で男を見た。 「面白い気配がしたから見に来たんだよ。そしたらお前が居てな」 「あー、気配は消せてもイケメンオーラは隠せなかったと」 男はふざけてみせるが、頬と背中を冷や汗が伝う。そう簡単に気配は悟られないようにしていたし、細心の注意を払っていた。それを、まさか気づかれるとは。 (しかもコイツどっからすっ飛んできた!? 直前で気配感じただけでどっから来たか全然わかんねぇんですけど!?) 「なあ、少し暇してたんだ。まだ時間があってよ」 「オレがお前相手で互角にできるのは、ベッドの上くらいだと思うんだけどねぇ」 「そっちもいいんだが、まあそれは今度として」 ルシファーは凶暴な笑みを男に向け、剣を構えた。 「で、相手してくれや」 「まーあ、こりゃあずいぶんとご立派なものをお持ちで……」 先に攻撃をしかけたのはルシファーだった。男はルシファーの振り下ろした大剣をかわし、距離をとった。地面に深々と刺さった剣が、当たればどうなるかを暗に語っている。 「オワタ式でラスボスとやり合うとか、勘弁してくれよ……!」 ルシファーはニヤリと笑い、刺さったままの剣を切り上げるように振り上げると、大きな斬撃が放たれた。 「ちょ、反則っ!!」 男は軽く素早い身のこなしでかわす。突然の出来事とルシファーから発せられるプレッシャーに、焦りと恐怖を抑えられない。少しでも落ち着くために深呼吸をし、退路を探す。 (オレで勝てる訳ねぇんだから、何とかして逃げねぇと……いや、それでも……) 目の前の大魔王を見て、男は歯噛みする。 (そもそも地力……速さも力も違いすぎる、逃げ切れる気がしねぇ) 「オイ、俺ばっかじゃつまんねぇんだけど? そっちから何もしねぇんだったら殺すぞ?」 「っ、仕掛けりゃいいんだろ畜生!!」 男は素早くルシファーに切りかかる。素早く、踊るような動きで攻撃を繰り返すが、全て防がれる。 「なんで大剣(クレイモア)でこれ全部捌けるんだよ!」 嘆きながらも攻撃を続ける男に、ルシファーは笑って見せた。 「俺なんだから、こんぐらい出来て当然だろ?」 「あーもー、さすが傲慢の魔王サマですこと……!」 (しかもコレ、全部手加減してやがるし……! や、手加減してくれないとオレみたいなのなんて瞬殺なんだけどさ!) 攻撃、防御、この戦いの全てを、ルシファーは手加減していた。力で押し切ることも、一瞬の隙をついて魔術で吹き飛ばすことも、男を倒す手はいくらでもあった。  だがあえてそれをしなかった。相手にとっては殺す気で行う攻撃も、ルシファーにとっては一瞬で相手もろともものだった。今のルシファーにとってこれは遊びだ。 (聞きたいことは山ほどあるけど、下手に逆鱗に触れるのは避けてぇ……。それにオレに気付くなら、サバオトやエラタオルにも気付いてる可能性は高い) ルシファーの攻撃をかわし、素早く切りかかるが、簡単に防がれる。 (なら、コイツのお遊びに付き合って、ちょっとでも時間を稼ぐか……!) 必死になっている男に対し、ルシファーは余裕そうで、しかしどこか楽しそうにも見えた。
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