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第四話 行進の歌
第5層、東部、森林地帯。エラタオルは突然切れた通信に胸騒ぎを感じながらも、部下と共に目的地である第6層へと向かっていた。
(轟音がすると同時に、あの密偵との通信が切れましたが……大丈夫なのでしょうか。いえ、今ここで気にしてもどうしようもありませんわ。とにかく、焦らずに急がないと)
周囲に気を配りながら先へと進む。すると、部下の1人がエラタオルに上を見るようハンドサインをした。エラタオルは即座に部下達にサインを送り、立ち止まらせる。可能な限り身を隠すようにし、空をちらりと見た。
空には翼の生えたトカゲのような生物が飛んでいる。ドラゴンだ。それも複数。
(二本足に、発達した翼……ドラゴンの中でも繁殖と飛行に優れたワイバーン種……)
それらには手綱が付けられており、背に何者かが乗っている。十中八九ルシファー、もしくは八魔将の手先だろう。
(さすがにこの数を相手にするのは……それに、部下達もいますし、あれらを相手にしている時間も勿体ない)
部下達に気をつけて進むようサインし、歩を進める。もし空中のどれかひとつにバレれば、今自分達の頭上を飛んでいるものが全て襲いかかってくるだろう。そうなれば多数の悪魔とワイバーンを相手にしなければならない。進行はおろか、最悪全滅もありうる。それだけは避けなければならなかった。
進んでいくと、少しずつ森が開けてきた。目的地に近づくことができていると同時に、身を隠す場所が少なくなっている。
(森を抜けきったら、一気に6層まで突っ走るしか無いかしら……)
そう考えていると、前方に数体の下級悪魔がいるのが見えた。ルシファーの下の者かは分からないが、知能は無さそうだ。普段ならば歯牙にもかけない相手だが、エラタオルは顔を顰めた。あの手の悪魔は、声がとにかくうるさいのだ。
迂回するか。そう考えていると、下級悪魔の視線がこちらに向いた。
「!」
エラタオルは投擲用のナイフを素早く投げ、前方の下級悪魔の喉と頭を的確に貫いた。音も声もなく、一瞬で戦闘が終わる。
(多めに持ってきていて正解でしたわ)
息を吐き、再び進み始めた。
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