4人が本棚に入れています
本棚に追加
第五話 失敗から成功まで
第7層、南部。一見して誰もいない荒野に、サマエルは空間転移で現れた。
(さて、ここからは徒歩か)
遠くから聞こえる耳障りな鳴き声やおぞましい咆哮に、サマエルは顔をしかめる。第7層からは地獄でも下層部とされているが、近づく者はまずいない。
まず、地獄で野放しにされている野生動物――魔獣の格が一気に上がる。調子に乗って下層へ行き、魔獣の餌になる悪魔の話はしょっちゅうだ。更に力だけでなく、優れた知能を持つ魔獣も出てくる。魔獣を配下かペットにしようと上位の悪魔が下層に降りたが、魔犬ケルベロスの群れに部下共々食われて全滅したり、悪魔の馬の上位種であるグラニに乗ろうとしたら振り落とされて頭を踏み潰された、気がついたら蟲の住処に迷い込み、群れに襲われ……などという事柄も多い。人間に起こりうる事が、地獄でも似たような形で悪魔に発生しているのだ。
危険なのは魔獣だけではない。下層にはたった一人でも、いくつもの軍を壊滅させることができる悪魔もいる。話せば分かるものもいるが、危険な所に単独でいるということは大抵ろくでもない理由があるものだ。
つまるところ、地獄の下層は危険な生物が跋扈している土地に凶悪な指名手配が複数隠れ住んでいるようなものだ。悪魔たちの間でもまともな例えがされない。
サマエルの目的地は、そんな地獄の中の地獄の最奥部、かつてルシファーが落とされた『コキュートス』だ。何故空間転移で直接行かないのか。大抵の者は疑問に思うだろう。
最初のコメントを投稿しよう!