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「水を差すようで悪いが、それに関して悪いニュースがある」
サマエルが口を出すと、アシャとスプンタとミカエルはサマエルを見た。
「天界軍の少数が、この期に乗じてアンリ・マンユと女悪魔ジャヒーの暗殺を企んでいる。ルシファーの軍がやったように見せ掛けるつもりだろう」
「何……!?」
「な……!?」
ミカエルは目を見開く。アシャとスプンタも動揺を隠せずにいる。
「おそらくカマエル辺り……『破壊の天使』に属する奴らが、それを計画している」
スプンタは苦い顔をする。アシャは真面目な顔をした。
「あいつら、場所は掴んでるのか?」
「あの感じからしてまだ。だが時間の問題だろう」
アシャは困った顔をして歯噛みし、小さく唸った。
「まずいな……けどこっちから出せる兵は限られてる」
「まずいのはそれだけじゃない。その辺に関して、今のルシファーが考えそうな事と被ってるかもしれん」
「被ってる……まさか」
スプンタの震える声にサマエルは頷く。
「悪魔王アンリ・マンユ、もしくは女悪魔ジャヒーが奪還されそうになった場合、天界側がやったように見せかけて片方を殺すだろう」
「本格的にヤベェな……」
ミカエルは腕を組み、サマエルを見る。
「何故そこまで分かる?」
「私の密偵は仕事ができるのでな。第一そういった諜報や暗躍の為に死の天使がある。そしてもし私ならどうするか、という主観も交えてるだけだ」
そう語るサマエルを見てミカエルは眉間に皺を寄せた。
「お前が言うと説得力があるな」
「それはどうも。アンリとジャヒー、どちらかがやられれば、もう片方がブチギレる。厄介なのは天界と向こう側、どちらがやっても理屈が通るところだ。天使が悪魔を殺すことは何もおかしい事じゃない。それどころか破壊の天使なら、その首を堂々と掲げもするだろう」
スプンタの顔から微笑が消え、目を細めた。
「……穏やかではないね」
「戦争だからな。アンリ・マンユの方に目がいきがちだが、ジャヒーはそのアンリの肉親でありながら分身でもある。ゆえにその力は絶大だ、どっちがやられてもまずい。そしてどちらがやられても確実にアジ・ダハーカは動くだろう」
アシャの表情に焦りが見え始める。スプンタの様子を見てミカエルも顔を顰め、次にサマエルを見た。
「作戦はもう立ててあるのか?」
サマエルは肩をすくめ、首を傾げた。
「そこまで知っておいて、私が何もしないとでも? 既に作戦は立ててるし誰がどこに向かうかも考えてある。後は戻って作戦の確認、そしてお前のように演説するだけだ」
サマエルの態度と物言いにミカエルは苦虫を噛み潰したような顔をするが、一つ咳払いをして表情を直した。
「……悪魔王アンリ・マンユ及び女悪魔ジャヒーの救出。これは重要事項だが、私達は動けない。頼むぞ」
「言われずとも」
サマエルはそう返すが、その目は真剣だった。そんなサマエルにスプンタが歩み寄る。
「私からもよろしく頼む。出陣志願をしておいてなんだが、立場上私は助けにいけない。だからどうか、二人を頼む」
「分かってるさ。……それじゃあ、また」
サマエルはそう言うと指を鳴らしてその場から消えた。
アシャはサマエルがいた場所を見つめてため息をつき、頭をかいた。
「俺も手伝えたらやるんだけど……」
「アシャは前衛隊だろう。彼らを手伝って欲しいのは山々だけど……」
「わあってる。俺には俺のやれることをやるだけだ。それに」
アシャは自分の掌にこぶしを当てた。
「ダエーワ陣営の奴らも出るってんだ。アイツらがいるんだろ? なら俺らは戦場にいるべきだ」
「それもそうだね。アシャ、頼むよ」
「おう」
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